米国、ヨルダン川西岸併合に警告 トランプ氏のガザ和平案に影
米国、ヨルダン川西岸併合に警告 トランプ氏のガザ和平案に影
イスラエル議会がヨルダン川西岸の併合に向けた法案を前進させる中、米国のマルコ・ルビオ国務長官が、こうした動きはドナルド・トランプ大統領のガザ和平計画と、かろうじて維持されている停戦を脅かすと警告しました。
ルビオ国務長官「和平合意を脅かしかねない」
2025年12月上旬現在、ガザではイスラエルとパレスチナの武装組織ハマスとの間で、かろうじて停戦が続いています。トランプ大統領は戦闘終結と長期的な安定を目指す20項目の計画を掲げており、米政府はその実行に力を入れています。
こうした中、ルビオ国務長官は、イスラエル議会(クネセト)がヨルダン川西岸の併合に向けて動いていることについて、「大統領は今、それを支持しないとはっきりさせている。和平合意を脅かしかねない」と記者団に述べました。発言はイスラエル訪問に出発する前日の夜になされたものです。
米国務省によると、ルビオ長官の訪問の目的は、トランプ大統領のガザ戦争終結に向けた20項目計画の履行を後押しし、イスラエルとハマスの間の停戦を維持・強化することにあります。
今週は、JD・ヴァンス米副大統領もイスラエルを訪問しました。ヴァンス氏はベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談したほか、防衛相のイスラエル・カッツ氏、戦略問題担当相のロン・ダーマー氏との協議も予定されています。米政権として、ガザ停戦と和平案を軌道に乗せるための働きかけを続けている形です。
ヨルダン川西岸併合法案とは何か
イスラエル議会では今週、占領下にあるヨルダン川西岸にイスラエルの国内法を適用する法案が予備採決を通過しました。これは、パレスチナ側が将来の国家樹立を目指す土地について、事実上の併合に道を開く動きと受け止められています。
主なポイントは次の通りです。
- 占領下のヨルダン川西岸にイスラエルの法律を直接適用する内容
- パレスチナの人々が将来の国家として構想している領域を含む
- 成立には4回の採決が必要で、今回の票決はその1回目にあたる
この法案は120議席のうち、賛成25、反対24という僅差で予備承認されました。ネタニヤフ首相の率いる与党リクードは賛成に回らず、与党外の議員によって提出された点も注目されています。
さらに、エルサレム近郊の大型入植地マアレ・アドミムの併合を進める別の法案も、野党議員によって提出され、賛成31、反対9で承認されました。
ヨルダン川西岸には、現在およそ70万人のイスラエル人入植者が居住しています。国連と多くの国々・地域は、こうした入植地を国際法に反するとみなしてきました。一方で、イスラエル政府は、同地域について聖書や歴史に基づくつながりを強調し、「係争地」であると主張しています。また、パレスチナ国家の樹立には反対の立場をとっています。
入植地問題は、数十年にわたって中東和平の最大の障害の一つとされてきました。今回の併合法案は、その根深い問題が再び前面に出た形と言えます。
トランプ政権とネタニヤフ政権の微妙な距離
今回の票決は、トランプ大統領が先月、「イスラエルによるヨルダン川西岸の併合は認めない」と表明してから約1か月後に行われました。米国はイスラエルの重要な同盟国ですが、少なくとも現時点では併合に反対している姿勢を明確にしています。
ネタニヤフ政権は2022年の発足以降、入植地建設を急速に拡大させてきました。現在の政権はイスラエル史上「最も右派的」とされ、超国家主義的な議員も多数参加しています。その一方で、ヨルダン川西岸の全面的な併合は、欧米諸国との関係や安全保障上のリスクが大きいとして、慎重な計算もにじみます。
今年9月には、イスラエルの複数の欧米の同盟国がパレスチナ国家を承認し、それへの対抗措置としてネタニヤフ政権内で併合案が検討されました。ただし、トランプ大統領が難色を示したことで、正式な政府案としての併合は一度棚上げされたとされています。
今回、与党リクードが法案を支持しなかった背景には、米国との関係に配慮しつつ、連立内外の右派勢力に一定のメッセージを送るという思惑も読み取れます。トランプ政権の和平案を進めるには、イスラエル国内の強硬派とどのように折り合いをつけるのかが大きな課題です。
UAEも「レッドライン」と警告
湾岸諸国も、ヨルダン川西岸の併合問題を注視しています。アラブ諸国の中で最も早く、そして大きな形でイスラエルと国交を樹立したアラブ首長国連邦(UAE)は、トランプ大統領の第1期政権下で仲介された「アブラハム合意」の主要な当事者です。
UAEは先月、ヨルダン川西岸の併合は自国にとって「越えてはならない一線(レッドライン)」だと警告しました。UAE大統領の外交顧問を務めるアナワル・ガルガシュ氏は、アブダビで開かれた会合で「われわれは併合を回避できたと考えている」と述べ、これまでの外交努力の成果を強調しました。
また、UAEの国家安全保障顧問タヌーン・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン氏は、米国特使のスティーブ・ウィトコフ氏とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏と会談し、ガザでの停戦状況とその強化策について協議しました。この会談は、ウィトコフ氏とクシュナー氏がイスラエルを訪問した直後に行われたと伝えられています。
UAEにとって、イスラエルとの関係は経済・安全保障の両面で重要ですが、ヨルダン川西岸の併合が現実になれば、アラブ世界の世論や自国の立場との間で難しいバランスを迫られることになります。
これからの焦点:ガザ停戦は維持されるのか
ガザでの停戦とヨルダン川西岸の地位は切り離せない問題です。トランプ大統領の20項目のガザ和平計画を軌道に乗せるには、イスラエルによる一方的な併合の動きが抑えられるかどうかが、重要な試金石となりそうです。
今後の注目ポイントを整理すると、次のようになります。
- イスラエル議会で残る3回の採決がどのような結果になるのか
- 米政権がどこまで強い姿勢で併合に反対し続けるのか
- ハマスやパレスチナ側が、併合の動きにどう反応するのか
- UAEをはじめとする湾岸諸国が、どの程度圧力や仲介に動くのか
日本にいる私たちにとっても、中東和平の行方はエネルギー安全保障や国際秩序の安定と密接に関わっています。ガザ停戦の維持とヨルダン川西岸の問題が、米国、イスラエル、アラブ諸国の政治の力学の中でどのように揺れ動くのか。今後の一つ一つの動きが、より広い中東情勢を占う指標になっていきます。
Reference(s):
cgtn.com







