アメリカ気候災害コストが過去最高に NOAA追跡停止の波紋 video poster
2025年の前半、アメリカで発生した大規模災害の被害額が史上最高水準に達する一方で、その被害コストを公的に追跡してきた米海洋大気庁(NOAA)の統計が、トランプ政権の予算削減により停止しています。気候変動との闘いに欠かせない「数字」が途切れつつあります。
2025年前半、災害被害額は1010億ドルに
非営利団体のClimate Centralによると、2025年上半期にアメリカで発生した主な自然災害の被害額は、合計で約1010億ドル(101 billionドル)に達しました。これは観測史上、同じ期間としては最も高い水準だとされています。
特に目立ったのが、ロサンゼルス周辺で起きた歴史的な規模の森林火災と、全米各地を相次いで襲った激しい嵐です。西海岸では乾燥と高温の条件が重なり、都市近郊まで火の手が迫る事態となりました。一方、中西部や南部では、暴風雨や洪水がインフラや住宅を広範囲に破壊し、多くの人々の生活に長期的な打撃を与えています。
2025年の前半だけでこれだけの被害額が積み上がったことは、人為的な気候変動がもたらすリスクとコストの大きさを、あらためて印象づけるものとなりました。
NOAAの災害コスト追跡が停止
こうした数字を本来であれば継続的に把握し、政府の政策や社会の議論に活かしていく役割を担ってきたのが、アメリカの国の機関であるNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)です。
しかし現在、この災害コストに関する政府の公式な追跡は止まっています。トランプ政権による最近の予算削減の影響で、NOAAは主要災害の被害額を継続的に集計・公表する仕組みを維持できなくなったためです。
その結果、2025年前半の過去最高の被害額という重要な情報は、政府の統計ではなく、Climate Centralのような非営利団体によって示されることになりました。
数字が途切れると何が見えなくなるのか
災害コストのデータは、単なる金額の羅列ではありません。政策立案や企業の投資判断、地域の防災計画にとって、重要な「地図」のような役割を果たしています。
- どの地域でどの種類の災害が増えているのか
- インフラ整備や住宅政策にどのくらいの投資が必要なのか
- 保険制度や公的支援をどう設計すべきか
こうした問いに答えるための基礎データが、政府の公式統計としては更新されなくなるということです。数字がなければ、被害の傾向も、対策の効果も、評価しにくくなります。
また、公的な追跡が止まることで、災害や気候変動のコストに関する議論が、より政治的な対立に引き寄せられやすくなる懸念もあります。共通の「土台」となる数字がなければ、議論は感覚や印象に依存しがちになるからです。
非営利団体が埋める空白と、その限界
今回、1010億ドルという衝撃的な数字を示したClimate Centralは、独立した非営利組織として、科学的な分析に基づき気候関連の情報を発信しています。NOAAによる追跡が停止したなかで、同団体の集計は、事実上の「代替データ」として注目されています。
一方で、政府機関による公式統計と、民間の非営利団体による分析は、その役割も位置づけも異なります。政府の統計には、政策や予算に直結させやすいという力がありますが、民間団体のデータは、どれだけ科学的であっても、政治の場で同じ重みを持てるとは限りません。
それでも、災害コストの全体像を社会に伝え、気候変動リスクを見える化するうえで、こうした非営利団体の存在は今後さらに重要になっていきそうです。
気候変動との闘いにとっての意味
CGTNのエディズ・ティヤンサン記者は、こうした状況が、人為的な気候変動と闘う取り組みにどのような影響を及ぼすのかを伝えています。記録的な被害額と、公的な追跡停止という二つの出来事が同時に起きていること自体が、現在のアメリカ社会の葛藤を象徴しているようにも見えます。
被害額のデータは、気候変動対策の「コスト」だけでなく、「対策を取らないことのコスト」を測る指標にもなります。たとえば、防災インフラへの投資や温室効果ガス排出削減の取り組みは、短期的には負担に見えるかもしれません。しかし、もし何もしなければ、今後も同じような災害コストが積み上がっていく可能性があります。
その意味で、災害コストの追跡は、社会としてどの程度のリスクを許容し、どのくらいの対策を行うのかを考えるための、重要な「鏡」の役割を果たします。その鏡が曇ってしまえば、将来の選択肢も見えにくくなります。
「見えないコスト」をどう可視化していくか
2025年も残りわずかとなった今、今年前半の記録的な被害額は、すでに半年以上前の出来事になりつつあります。それでも、復旧に追われる地域や、保険料の上昇に直面する人々にとっては、災害の影響は現在進行形の問題です。
気候変動がもたらすコストの多くは、日常生活のなかでは見えにくい形で現れます。電気代や食品価格、防災インフラへの負担、そして何より、暮らしの安心感です。そうした「見えないコスト」をどう可視化し、社会全体で共有していくのか。その出発点の一つが、災害コストを追跡するデータです。
アメリカで公的な追跡が停止したなか、民間の組織やメディアがどこまでその空白を埋められるのか。そして数字をめぐる議論を、対立ではなく、共通の現実認識へとつなげられるのか。2025年の記録的な被害額は、その問いを静かに突きつけています。
Reference(s):
Climate disasters hit record costs as tracking system is shut down
cgtn.com








