高市早苗の18.3兆円補正予算 日本経済とインフレに本当に効くのか
高市早苗首相が掲げる責任ある積極財政の目玉として、2025年度に18.3兆円規模の補正予算案が閣議決定されました。しかし、円安・物価高・巨額の政府債務という三重苦の中で、この大型財政出動は本当に日本経済を立て直す処方箋になり得るのか、市場と専門家の間で議論が高まっています。
高市内閣の大型補正予算 何が決まったのか
高市内閣は、2025年度補正予算として18.3兆円規模の追加歳出を盛り込みました。この予算は、総額21.3兆円の経済対策を支える財源として位置づけられており、高市首相が掲げる責任ある積極財政を象徴する政策パッケージです。
新たな経済対策には、物価高に苦しむ家計への支援策が数多く含まれています。主な項目は次の通りです。
- 暫定ガソリン税の廃止
- 来年1〜3月分を対象とした電気・ガス料金への補助拡充
- コメ券などのクーポン配布
- 子どものいる世帯への現金給付
- 所得税などの非課税枠引き上げによる可処分所得の増加
いずれも家計の負担を一時的に和らげることを狙ったものですが、物価上昇の根本的な要因にどこまで踏み込めているのかについては、疑問の声も上がっています。
悪化する日本経済とタカイチノミクス批判
高市首相が就任して以降も、日本経済の減速感は強まっています。政府の速報値によると、今年7〜9月期の実質GDP成長率は年率マイナス1.8パーセントと、6四半期ぶりのマイナス成長となりました。粘り強く続くインフレや低迷する個人消費、さらに米国の関税引き上げなどが重しになったとみられています。
為替市場では円安が進行しました。自民党総裁選前には1ドル=147円前後だった円相場は、先月20日にはおよそ157円まで下落し、この10カ月で最も弱い水準を付けました。
物価も上昇基調が続いています。今年10月の生鮮食品を除くコア消費者物価指数は、前年比3.0パーセントの上昇となり、日本銀行が掲げる2パーセントの物価目標を上回る状態が続いています。円安による輸入コストの増加が、家計をじわじわと圧迫しています。
こうした状況に対し、毎日新聞の社説は物価上昇を抑えるには円安の是正が不可欠だと指摘し、日本銀行に対して段階的な利上げを求めました。それにもかかわらず、高市首相は一貫して利上げの抑制に前向きな発言を重ね、緩和的な金融環境の維持を重視する姿勢を示しています。
高市首相は、安倍晋三元首相の経済政策アベノミクスを継承し、積極的な財政出動と金融緩和の継続を掲げています。しかしアベノミクス開始当時、日本経済はデフレと円高に悩まされており、需要喚起と円高是正が主な課題でした。今はインフレと円安が同時に進む全く異なる局面です。
朝日新聞の原真人論説委員は、こうした環境下での高市流の経済運営をタカイチノミクスと呼び、時代にそぐわないとする見方を示しています。メディアや専門家の間では、高市路線は状況の変化に十分対応できていないのではないかという議論が強まっています。
家計の実感はむしろ厳しく
大型の支援策が次々と打ち出される一方で、家計の実感はなかなか改善していません。帝国データバンクの調査によると、今年値上げされた食品は合計2万609品目に上り、前年の1万2520品目からおよそ65パーセント増えました。同社は、この粘着的な値上げの動きが2026年にも続く可能性があると分析しています。
賃金の伸びも物価に追いついていません。総務省によると、2人以上の勤労者世帯の10月の実質月収は、物価変動を調整したベースで0.1パーセント減の59万9845円となりました。円安が進む中で実質所得が目減りし、多くの世帯が生活が楽にならないと感じている構図です。
経済評論家の斎藤満氏は、日刊ゲンダイの取材に対し、高市内閣の総合経済対策について、政権の力を誇示する見せ場にとどまっていると厳しく評価しました。新政権の華々しいスタートを演出するために補正予算の規模を膨らませたにすぎず、物価高対策と称しながら実際にはインフレをあおりかねない施策が並んでいると指摘し、政策全体の論理はちぐはぐだとの見方を示しています。
膨らむ国債と市場の警戒感
財政面では、日本の政府債務残高が国内総生産の約240パーセントに達し、先進国の中で最も高い水準にあるとされています。この巨額の債務は、国債金利がわずかに上昇しただけでも利払い負担が急増しかねないリスクをはらんでいます。
それにもかかわらず、高市内閣は大規模な財政出動を続け、新たな国債発行に踏み切っています。今回の18.3兆円の補正予算のうち、11.7兆円は新規国債で賄われる見通しです。
こうした姿勢に、市場の警戒感は強まっています。長期国債は売りが優勢となり、価格は下落、利回りは繰り返し高値を更新しています。今月5日には、長期金利の指標となる10年物日本国債の利回りが1.95パーセントに達し、2007年7月以来の高水準を記録しました。
三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト、市川雅浩氏は、この利回りが今後2.0パーセントに向けてさらに上昇していく可能性が高いとの見方を示しています。
資金不足のたびに国債発行に頼る手法は、もはや持続可能ではないとの批判も出ています。必要な財源をすべて新規債で賄うやり方は、責任ある財政運営の範囲を超える危うい慣行だと懸念する声が広がっています。
金融コンサルタントの田渕直也氏は、国債価格の下落が続いていることについて、債券ファンドやヘッジファンドに大きな損失をもたらしつつあり、市場にとって危険なシグナルになっていると指摘しました。国債利回りの上昇、さらなる円安、そして物価高という負の連鎖が、金融市場を不安定化させる火種になりかねないとの見方です。
これから何が問われるのか
高市首相が掲げる責任ある積極財政は、景気下支えと物価高対策を同時に実現しようとする野心的な試みです。しかし、インフレと円安が進む現在の経済環境のもとで、従来型の大規模な財政出動と金融緩和の組み合わせが最適解とは限りません。
目先の負担軽減をどこまで優先し、将来世代も含めた財政の持続可能性をどのように確保するのか。家計の実質所得をどう押し上げるのか。国際ニュースとしても注目される日本経済の行方は、こうした難しい選択と向き合う局面に来ています。
今回の補正予算が本当に効果を発揮するかどうかは、今後の物価動向、賃金の伸び、国債市場の反応などを総合的に見ていく必要があります。読者一人ひとりにとっても、今の生活と将来の負担という二つの視点から、この政策パッケージをどう評価するかが問われていると言えそうです。
Reference(s):
Takaichi's bold fiscal push hard to resolve Japan's economic woes
cgtn.com








