フランス麻酔科医に終身刑 30人に毒物投与し12人死亡
フランス東部の都市ブザンソンのクリニックで働いていた麻酔科医が、30人の患者に毒物を投与し、このうち12人を死亡させたとして、フランスの裁判所から終身刑を言い渡されました。医療現場で何が起きていたのか、そして患者の信頼をどう守るのかが改めて問われています。
30人中12人が死亡 低リスク手術中に相次いだ心停止
終身刑を言い渡されたのは、フレデリック・ペシエ被告(53)です。麻酔科医として、2008年から2017年にかけてブザンソンの2つのクリニックで勤務していました。
この期間中、子どもから高齢者まで計30人の患者が手術中に突然心停止を起こし、そのうち12人が蘇生できずに亡くなりました。最年少の被害者は4歳の男の子テディさんで、2016年の扁桃腺の手術中に2度の心停止を経験しながら、命は取りとめました。最年長の被害者は89歳でした。
いずれも事前のリスク評価では、重い合併症が起きにくいと考えられていた患者でした。それだけに、相次ぐ心停止は当初から現場で大きな違和感を持って受け止められていたとされています。
点滴への薬物混入で心停止や出血を引き起こしたと検察
2017年、低リスクとされる手術中に不自然な心停止が続いたことから、本格的な捜査が始まりました。検察によると、ペシエ被告は同僚が担当する患者の点滴バッグに、カリウムや局所麻酔薬、アドレナリン、さらには抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)などを混入し、心停止や大量出血を意図的に引き起こしたとされています。
検察側は、公判で「医療を人を救うためではなく、殺すために使った」と厳しく非難。被告の目的は、対立していた同僚の医療スタッフを心理的に傷つけ、自らの影響力を誇示することだったと主張しました。
裁判所は終身刑 被告は一貫して無罪を主張
3か月以上に及んだ公判の末、裁判所はペシエ被告に終身刑を言い渡し、主文後ただちに収監するよう命じました。裁判長デルフィーヌ・ティビエルジュ氏は、法廷で即時収監を告げたとされています。
ペシエ被告は捜査開始以来、身柄を拘束されることなく裁判に出廷してきましたが、今回の判決によって収監されることになります。言い渡しの瞬間、被告本人は大きな動揺を見せなかった一方、傍聴席にいた家族らは涙を流したと伝えられています。
被告は捜査段階から一貫して容疑を否認し、自分は毒物を使った殺人者ではないと主張してきました。公判では、勤務していたクリニックの一つで患者に毒物を投与した人物がいたことは認めつつも、それは自分ではなく、多くのケースは同僚による医療ミスが原因だと訴えました。
同僚の一人は、ペシエ被告について「非常に優秀な医師だが、自尊心が過剰な人物」と証言しました。被告は公判の中で、2021年に自殺を図ったことも明かし、当時の心境を涙ながらに語ったとされています。
弁護団のオルネラ・スパタフォラ弁護士は、判決を不服として控訴する方針を示しており、今後も法廷闘争は続く見通しです。
なぜ長年見過ごされたのか 浮かび上がる構造的な問題
今回の事件が問題視されるのは、その凶悪性だけではありません。2008年から2017年までの約10年間、低リスクの手術で異常な心停止が繰り返されながら、決定的な行動がすぐには取られなかったことも大きな疑問として残っています。
今回の判決は、5月に別の裁判所が引退した医師ジョエル・ル・スコワルネックに20年の禁錮刑を言い渡したことに続くものでもあります。ル・スコワルネック元医師は、1989年から2014年の間に、主に子どもを中心とする298人の患者に対し、性的虐待やレイプを行ったことを認めました。
この事件では、少なくとも一人の同僚が早い段階で危険性を訴えていたにもかかわらず、医師が退職まで診療を続けていたことが大きな問題となりました。ペシエ被告の事件と並べてみると、医療従事者による重大な不正行為が、組織の内部通報や監督メカニズムの不十分さによって長期間見逃されていたという共通点が浮かび上がります。
医療への信頼をどう守るか
医療は、患者が自分の身と生活を預ける行為の上に成り立っています。その信頼が一度大きく揺らぐと、医師と患者の関係だけでなく、医療制度全体への不信にもつながりかねません。
今回のフランスの事件は、個々の医師の倫理観だけでなく、次のような組織としての安全網をどこまで張り巡らせるかという課題も浮き彫りにしています。
- 不自然な合併症や事故のパターンを早期に検知する仕組み
- 同僚に疑念を抱いた時に安心して相談・通報できるルート
- 患者や家族からの違和感の声を丁寧に拾い上げる体制
医療の現場には、高度な専門性と同時に大きな権限が集中します。その中で、権限が暴走しないようにするためのチェック機能をどう設計するのか。静かですが重い問いが、今回の裁判を通じて突き付けられています。
Reference(s):
French doctor jailed for life for poisoning 30 patients, killing 12
cgtn.com








