EU、凍結ロシア資産「元本」活用に揺れる理由 ウクライナ支援はどこまで進む?
EU(欧州連合)が凍結しているロシア資産を、利息だけでなく「元本」まで使ってウクライナ支援に回せるのか——。 2025年12月18〜19日にブリュッセルで開かれている欧州理事会(EU首脳会議)で、この論点が改めて大きな焦点になっています。
いま議論になっているのは「利息」から「元本」へ
EU内で注目されているのは、凍結したロシア資産が生む利息(運用益)の活用から一歩進み、資産の元本そのものを支援に使えるかどうかです。議論は数年続いてきましたが、ウクライナ支援の継続と財政制約が重なるなかで、結論を先送りしにくくなっています。
凍結資産はいくら? EU内で約2100億ユーロ
ロシア中央銀行の海外資産について、西側諸国は2022年2月のウクライナ危機の激化を受けて、約3000億ドル規模を凍結しました。欧州委員会のデータでは、EU域内で凍結されている総額は約2100億ユーロ(約2460億ドル)とされます。
- EUで凍結された資産の約90%は、ブリュッセル拠点の国際証券集中保管機関ユーロクリア(Euroclear)経由で保有
- この資産プールは、年間約30億ユーロの利息を生むとされる
これまでの決定:利息は活用、G7は50億ドルの枠組み
EUはすでに「利息(純収益)」の活用には踏み出しています。
- 2024年5月:EU理事会が、凍結ロシア資産から生じる純収益を、ウクライナ支援(防衛産業支援や復興など)に使えるようにする枠組みを採択
- 2024年6月:G7首脳が、凍結資産の収益を裏付けにした500億ドルの融資をウクライナに供与することで合意
一方で、元本をどう扱うかは別の次元の問題として、EU内の議論が続いています。
EUがためらう理由①:国際法と「前例」の重さ
最大のハードルは法的論点です。元本の直接的な没収・流用は、確立した法実務の観点から正当化が難しいとされ、一度前例を作れば歯止めが利きにくいという懸念があります。
欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁は、国際法の尊重を繰り返し求め、ユーロの国際的地位が損なわれかねないと警鐘を鳴らしてきました。
EUがためらう理由②:「安全な市場」という信認が揺らぐリスク
もう一つは市場への波及です。中央銀行の準備資産や国境をまたぐ資産保有にとって、欧州が「安全な管轄(セーフ・ジュリスディクション)」だという信認が疑われれば、
- 欧州で保有することへの不安が広がる
- 資金流出の連鎖が起きる可能性がある
- 結果としてユーロの準備通貨としての役割に影響しうる
といったシナリオが指摘されています。「ウクライナ支援の財源」という短期の課題と、「通貨・市場の信認」という長期の課題が、同じテーブルに乗っている構図です。
EUがためらう理由③:報復の連鎖と企業リスク
さらに複雑にしているのが報復リスクです。今週、ロシア中央銀行がユーロクリアを提訴したとされ、ロシア側が対抗措置として、ロシア国内に残る欧米関連資産の差し押さえ・凍結に動く可能性も意識されています。こうした「やり返し」の応酬は、欧州企業や金融機関に資産が戻らない(取り残される)リスクを突きつけます。
賛成・反対はどこに割れているのか
ウクライナ支援を各国の国家予算だけで賄い続けることへの慎重論が強まるほど、凍結資産の活用論は勢いを得ます。ただし、各国の利害とリスク認識は一致していません。
慎重・反対の声
- ハンガリーのオルバン首相は、ロシア資産の使用を避けるべきだとの立場を示しています。
- スロバキアも同様の姿勢とされます。
- ユーロクリア本社があるベルギーは、報復や法的・金融的な負担が自国に偏る懸念を挙げ、重要な慎重派とされています。
推進の動き
- 欧州理事会議長アントニオ・コスタ氏、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長らは、首脳会議に向けて加盟国の足並みをそろえ、打開を探ってきたとされます。
大西洋をまたぐ温度差
米メディアPoliticoは、米政府が凍結資産を用いた資金拠出計画に反対し、イタリア、ブルガリア、マルタ、チェコに同調を促したと報じています。EU内部の対立に加え、同盟国間でも議論が残る形です。
「凍結は維持」——ただし出口設計はより難しく
首脳会議に先立ち、EUはロシア資産の凍結を維持し、その期間を紛争の終結と損害補償に結び付ける方針を確認したとされます。これまで凍結措置は6カ月ごとの更新で、27加盟国の全会一致が必要でした。
凍結の継続自体は既定路線でも、「利息の活用」から「元本の扱い」へ踏み込む瞬間には、国際法・市場の信認・報復の連鎖という三つの壁が同時に立ちはだかります。欧州がどこまでリスクを定量化し、政治的に引き受けるのか。今回の首脳会議は、その“限界線”を測る場にもなっています。
Reference(s):
Explainer: Why EU wavers on using frozen Russian assets to aid Ukraine
cgtn.com








