ウイルスが細菌を操る「隠れRNA」発見 ファージの新たな戦略
ウイルスは、宿主の細胞を壊すだけではなく「見えにくいRNAのメッセージ」で操る――。そんな新しい感染像を示す研究が、2025年12月18日(木)に分子生物学誌「Molecular Cell」で報告されました。細菌に感染するウイルス(ファージ)が、小さなRNAを使って宿主の遺伝子の働きを組み替える可能性が明らかになった形です。
何が分かった?ポイントは「RNA同士の会話」
研究を行ったのは、イスラエルと米国の研究チーム。大腸菌(E. coli)が、ラムダファージ(lambda phage)に感染した際、細胞内でどんなRNAの相互作用が起きるのかを詳細に地図化しました。
高度な解析手法を用いることで、細菌の中だけでなく、細菌と侵入してきたウイルスの間でも、多数のRNAが結びつき合う「ネットワーク(会話の網)」があることを初めて観測したといいます。
主役はウイルス由来の極小RNA「PreS」
研究が特に注目したのは、ウイルスがコードする小さなRNA「PreS」です。PreSは、ウイルスが活発に増える過程(複製サイクル)で作られ、宿主である細菌のメッセンジャーRNA(mRNA:タンパク質の設計図に相当)に結合します。
狙いは「宿主のDNA複製装置」
PreSが結合するのは、細菌がDNAを複製するために必要な装置(関連タンパク質)を作る指示を出しているmRNAだとされます。PreSはこの宿主mRNAの構造を変化させ、結果として細菌側にDNA複製の機械を“過剰につくらせる”方向へ誘導します。
増えた複製装置は、ウイルス自身の遺伝情報のコピーにも利用され、ウイルスの増殖(子孫ウイルスの生産)が加速する――研究は、この流れを「分子レベルのトロイの木馬」のような戦略として描写しています。
PreSを無効化すると、ウイルス増殖が落ちた
実験では、PreSの働きを止めるとウイルスの複製が大きく低下したと報告されています。つまりPreSは、感染を成立させる“脇役”ではなく、増殖効率を左右する実働部隊だった可能性があります。
この仕組み、微生物の世界で「広く使われている」かもしれない
研究によると、PreSに似た配列は多様なウイルスや細菌のゲノムにも見つかるとされ、こうした小RNAを介した制御が、微生物同士の攻防で広く用いられている可能性が示唆されます。
今後の影響:感染の理解から、新しい制御法の発想へ
今回の成果は、感染を「タンパク質同士の戦い」だけで捉える見方に、RNAによる調整という層を重ねました。研究チームは、感染ダイナミクス(感染の進み方)の理解を深めるだけでなく、将来的にウイルスの振る舞いを操作したり、新たな抗菌アプローチ(微生物制御の設計)につなげたりする道が開ける可能性があるとしています。
細胞内で交わされる“短いメッセージ”が、感染の勝敗を左右する。2025年末のこの報告は、目に見えない分子のやり取りが生態系や医療の発想を静かに更新していく過程を、具体的に見せた研究と言えそうです。
Reference(s):
Study reveals how viruses hijack host cells using hidden RNA messages
cgtn.com








