EU・仏独が米国のビザ禁止を批判、「検閲」論争が深まる
米国が、オンライン上のヘイトや偽情報対策に関わる欧州の市民5人に対してビザ禁止措置を科したことを受け、EU(欧州連合)とフランス、ドイツが「不当だ」と反発しています。ブリュッセル(EU側)は、必要なら「迅速かつ断固として対応する」と述べ、米欧間の“表現の自由”をめぐる溝が一段と広がりそうです。
何が起きたのか:米国が欧州の5人にビザ禁止
報道によると、米国のドナルド・トランプ政権は今週、欧州の市民5人に対してビザ禁止措置を発動しました。米側は、対象者が「言論の自由を検閲する取り組みに関与した」または「米国のテック企業を不当に狙う過度に重い規制を推進した」と主張しています。
対象者には、フランスのティエリー・ブルトン元EU欧州委員(前欧州委員)も含まれるとされています。
EUの反応:「不当な措置には迅速かつ断固として」
欧州委員会の報道官は、米国の決定を「強く非難する」としたうえで、「表現の自由は欧州の基本的権利であり、民主主義の世界で米国とも共有される中核的価値だ」と述べました。
同時に、EUには経済活動を規制する権利があるとして、米国側に措置の詳細説明を求めたとしています。さらに、「必要であれば、不当な措置に対し、EUの規制上の自律性(regulatory autonomy)を守るため、迅速かつ断固として対応する」と踏み込みました。
争点の中心にある「デジタルサービス法(DSA)」
今回の対立の背景には、EUのデジタルサービス法(DSA)があります。DSAは、巨大プラットフォーム企業に対し、違法コンテンツ(ヘイトスピーチや児童性的虐待に関する素材などを含む)への対応強化を求め、オンライン環境をより安全にすることを狙う枠組みです。
一方で米国側は、ヘイト、ミスインフォメーション(誤情報)、ディスインフォメーション(意図的な偽情報)への対策が「表現の自由に対する不当な制約」になり得ると主張し、DSAが米国のテック大手や米国の人々を不公平に標的にしている、という見方を示しています。
Xへの制裁も火種に
論争を加速させた出来事として、EUが今月、イーロン・マスク氏が所有するXに対し、オンラインコンテンツ規則の違反を理由に1億4,000万ドルの制裁金を科した点が挙げられています。マスク氏とブルトン氏は、EUのテック規制をめぐってオンライン上でたびたび応酬してきた経緯があります。
ビザ禁止の対象者:ヘイト対策・偽情報対策の関係者
米国のサラ・ロジャーズ国務次官(公共外交担当)によると、ビザ禁止の対象には次の人物が含まれます。
- ティエリー・ブルトン氏(フランス、元EU欧州委員)
- イムラン・アフメド氏(英国、米国拠点のCenter for Countering Digital HateのCEO)
- アンナ=レーナ・フォン・ホーデンベルク氏(ドイツ、非営利HateAid)
- ヨゼフィーネ・バロン氏(ドイツ、非営利HateAid)
- クレア・メルフォード氏(Global Disinformation Index共同創設者)
なぜ今重要なのか:米欧の「価値の言葉」が衝突している
今回の出来事が重いのは、単なる渡航措置にとどまらず、米欧双方が「表現の自由」という同じ言葉を掲げながら、何を守るべき自由と捉えるのか、どこまでを規制として許容するのかで衝突している点です。
報道では、米欧間ではこの問題以外にも、防衛、移民、極右政治、貿易、ロシア・ウクライナ紛争をめぐる立場の違いが広がっているとされます。さらに、米国の国家安全保障戦略文書が、欧州に対し同盟関係に関わる厳しい警告を示したとも伝えられており、摩擦が複合化している構図が見えます。
今後の焦点:EUの「対抗措置」は現実になるか
欧州委員会は、米国に追加情報を求めたとしたうえで、「必要なら迅速かつ断固として対応する」と明言しました。今後の焦点は、
- 米国がビザ禁止の根拠や対象選定の説明をどこまで行うか
- EUが“規制の自律性”を守るとして、具体的にどのような対応を取るのか
- オンライン空間の安全確保と表現の自由を、国境を越えてどう両立させるのか
といった点になりそうです。テック規制と自由の境界線をめぐる議論は、2025年の年末時点でも、米欧関係の温度差を映すテーマとして続いています。
Reference(s):
EU, France, Germany slam US visa bans as 'censorship' row deepens
cgtn.com








