米国、国際機関66からの脱退指示 気候・包摂の枠組みに波紋
米ホワイトハウスが2026年1月7日(現地時間)に公表した「66の国際機関からの脱退」方針は、資金面だけでなく国際協調の“規範”にも影響しうる動きとして注目されています。 1月8日、米大学の政治学者・孫泰一氏は、脱退の背景と波及について「国内政治の計算が強い」との見方を示しました。
何が起きたのか:66機関からの脱退を指示
ホワイトハウスによると、ドナルド・トランプ米大統領は、米国が「もはや米国の利益に資さない」とする国際組織からの脱退を指示する覚書に署名しました。対象は合計66機関で、内訳は国連関連が31、非国連組織が35とされています。
報道によれば、気候変動、グローバル・ガバナンス、労働などに関わる機関・委員会・助言組織が含まれ、政権側が「多様性」や、いわゆる「woke(ウォーク)」的アジェンダと位置づけてきた領域が目立つとされています。
専門家の見立て:焦点は「資源」と「規範」
CGTNの取材に応じた孫氏(米クリストファー・ニューポート大学・准教授)は、今回の脱退を「グローバルな責任の精密な再評価というより、国内政治(MAGA支持層への配慮)に強く駆動された動き」と整理します。
1) 資金面:脆弱層支援や長期施策に“穴”が開く
孫氏は、短期的には財政的な不足が生じやすいと述べています。とりわけ影響が出やすいのは、安定した多国間資金に依存しやすい分野です。
- 気候変動対策などの長期的な持続可能性プログラム
- 社会的包摂(インクルージョン)に関する取り組み
- 人道支援、社会保障、脆弱な人々への支援
2) 規範面:影響が長引きうる「価値の後退」
より長期化しうるのが規範面だと孫氏は指摘します。世代間責任(将来世代への配慮)、社会的包摂、グローバルな連帯といった価値を軸にした協調からの明確な後退として受け止められれば、予算不足を超えて国際社会の“当たり前”が変化する可能性がある、という見立てです。
「空白」は生まれるのか:埋まるのか
孫氏は、これほどの規模の離脱では一時的な“空白”は避けにくいとしつつも、「空白が長く放置される可能性は高くない」と述べています。歴史的に、主要な公共財供給者が後退すると、他の主要アクターや制度側が徐々に機能を引き受ける局面があるためです。
重要なのは、新たな枠組みをゼロから作ることよりも、既存の制度の中で役割の肩代わりが進むかどうか。孫氏はこれを、既存の制度を壊さずに責任が移っていく「秩序の継承(order succession)」として捉えています。つまり、制度は続くが、リーダーシップや負担配分が組み替わる局面です。
中国の提案型イニシアティブは「補完役」になりうるか
孫氏は、米国が脱グローバル化や国内ポピュリズムへ傾く局面では、中国が進める国際協力のイニシアティブが、既存の多国間協力を「置き換える」のではなく「補完する」形で役割を増しうると述べています。主権平等、国際法の尊重、多国間主義、人々中心の発展、実効性といった原則を掲げ、気候変動、持続可能な発展、公衆衛生などで不確実性が増した領域の協調を下支えする、という位置づけです。
今後の見取り図:米外交の揺れと、分散する国際秩序
孫氏は、今後も政権交代で修正・反転が試みられる可能性はある一方、反復される離脱と復帰は「信頼の累積ダメージ」になりうると指摘します。結果として、国際秩序は一枚岩ではなく、より分散的で多極化した形へと進み、複数の担い手が競合・分担しながら機能を継承していく——そんな姿が現実味を帯びてきた、という見立てです。
今回のニュースは、国際機関の名簿以上に、「誰が、どの価値に、どれだけコストを払うのか」という問いを突きつけます。資金の不足は数字として見えやすい一方、規範の変化は気づいたときには後戻りしにくい。2026年の年初、国際協調の“重心”がどこへ移るのかを占う材料になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com







