南極に「氷床コア保管庫」開設へ――溶けゆく氷河の気候記録を未来に残す
地球温暖化で氷河の融解が進むなか、失われる前に「気候の記憶」を保存しようと、南極に山岳氷床コアの国際的な保管施設が稼働を始めました。研究の主役は“いまの技術では読み切れない未来の手がかり”です。
南極の極低温を「天然の保管庫」に
欧州の研究者らは今週水曜日(現地時間)、南極高原のコンコルディア基地周辺で、山岳氷河から採取した氷床コア(氷の柱状試料)を長期保管する施設の運用を開始しました。
この地域は気温が概ねマイナス50度前後と安定しており、氷床コアを雪の下に埋設して保管できます。人工的な冷凍設備に頼らず、自然条件そのものを活用する点が大きな特徴です。
「Ice Memory」構想とは:消える前に採って守る
保管サイトは、フランス、イタリアなどの研究機関が主導する「Ice Memory Foundation(アイス・メモリー財団)」の取り組みの一部です。重要な氷河から代表的な氷床コアを採取し、氷河が失われても研究できるよう“物理サンプル”として守ることを目指しています。
今回保管された最初のサンプル
- アルプスの山岳氷河で採取された氷床コア
- フランスのモンブラン、スイスのグラン・コンバンなどが含まれる
- 厳格なコールドチェーン(低温物流)で、砕氷船と航空機を使い約50日かけて南極へ輸送
氷の中に閉じ込められた「当時の空気」を残す意味
氷床コアは、雪が積もって圧縮される過程で、当時の大気の状態を層として封じ込めます。そこには温室効果ガスだけでなく、エアロゾル(微粒子)、汚染物質、砂じんなど、気候や環境の変化を読み解く材料が含まれます。
アイス・メモリー財団の副議長で、ベネチアのカ・フォスカリ大学教授カルロ・バルバンテ氏はAP通信に対し、氷の層に閉じ込められた大気ガスや微粒子などの「物理サンプル」を守ることで、将来の研究者が「まだ存在しない技術」を使って過去の気候を調べられるようになる趣旨を語りました。
「いま失われると、二度と戻らない」スピード感
2025年12月に学術誌「Nature Climate Change」に掲載された研究は、気候変動への有効な対策がなければ、世界で消失する氷河の数が、現在の年約1,000から、2040年代〜2050年代には年2,000〜4,000へ加速する可能性があると警告しました。氷河が消えれば、その場所の気候情報も原則として回収不能になります。
このニュースが投げかける問い
今回の保管庫は、単に「データのバックアップ」ではなく、未来の科学が読み解くための“未解読の原本”を残す試みです。気候対策の議論が続く一方で、同時に「失われる前に保存する」という別の時間軸の取り組みも進んでいます。
氷河が語る過去を、どのように未来の意思決定につなげていけるのか。南極の雪の下で始まった静かな保管作業は、その問いを長いスパンで突きつけています。
Reference(s):
Ice core repository opens in Antarctica to preserve climate history
cgtn.com








