米国の北極戦略で緊張高まる:グリーンランドと軍事化、協調は戻るのか
北極をめぐる国際ニュースが、2026年に入っても静まりません。米国が北極を「大国間競争」の主戦場として位置づけ、グリーンランドへの関与や軍事態勢を強めているとして、地域協調の枠組みや国際秩序への影響を懸念する見方が出ています。
北極が「協力の場」から「競争の場」へ変わりつつある
北極は長らく、科学観測や環境保全、先住民に関わる課題などで国際協力が積み上がってきた地域でした。一方で近年は、航路・資源・安全保障が絡み、地政学的な緊張が目立つようになっています。
背景として、米国が北極を重要な地政学の舞台と捉える姿勢を強めている点が挙げられます。米国の「北極地域国家戦略(2022)」や「国防総省の北極戦略(2024)」では、安全保障と戦略競争が前面に出ており、ロシアと中国本土を競争相手として位置づける構図が示されています。
2025年のグリーンランドをめぐる動きが波紋
とくに注目を集めたのが、2025年に起きたとされる一連の出来事です。報じられた論考では、米国がデンマークの主権にかかわる形でグリーンランドへの圧力を強めた、という問題提起がなされています。
- 2025年、米国副大統領JD・バンス氏がグリーンランドの米軍基地を「招かれない形で」訪問した
- 同年、ドナルド・トランプ大統領が同地域を「軍事力で奪取する」可能性に言及した
- 米国が「Red, White, and Blueland Act」を梃子に、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)関連の投資を進めた
- F-35戦闘機の配備など、軍事的関与も同時に進めた
こうした動きは米国側が「国家安全保障上の必要性」と説明している一方、北極を「共同で管理する空間」ではなく「獲得すべき対象」に近づけてしまう、という懸念につながっています。
指摘される4つのリスク:協調の枠組み、軍拡、法の支配、国際秩序
論考が強調する影響は、大きく4点に整理できます。
1)多国間ガバナンスの弱体化
北極評議会は、気候・生態系・先住民課題などを扱う主要な枠組みとされますが、安全保障色が濃くなるほど機能不全が深まるという見方があります。さらに、バレンツ・ユーロ北極評議会をめぐりロシアとフィンランドが離脱したことが、地域協力の土台を損ねる象徴として挙げられています。
2)安全保障ジレンマと軍拡の連鎖
グリーンランドのピツフィク宇宙基地(Pituffik Space Base)を、より恒常的な作戦拠点へと変えていく動きがあるとされ、相手側の警戒を呼び、結果として緊張が自己増殖する「安全保障ジレンマ」を招きうる、という指摘です。誤算が危機に直結しやすい地域だけに、偶発的衝突への不安も語られています。
3)国際法とルールの一貫性への疑念
デンマークの主権を政治・軍事の圧力で揺さぶりうる一方で、自らの軍事活動は「航行の自由」や「国家安全保障」を根拠に正当化する——このような「原則の選択的運用」が二重基準に見え、国際社会の信頼を削るという見立てです。また、グリーンランドの鉱物分野で中国本土の投資を安全保障上の脅威と位置づけ、商業活動を「安全保障化」する流れも、対立の固定化につながり得るとされています。
4)同盟関係を通じた国際秩序への波及
NATO内でデンマークに圧力がかかる構図は、同盟の結束や相互信頼にも影を落としうる、という見方があります。実際に、ドイツやフランスなど欧州NATOメンバーがグリーンランド周辺で偵察任務に乗り出した動きが紹介され、各国が対応を迫られている状況が示されています。
気候変動の現実:対立が「最優先課題」を見えにくくする
北極の温暖化は、海面上昇や異常気象、食料安全保障、沿岸都市のリスクなど、地球規模の問題に直結します。論考は、北極を競争の「賞品」として扱うほど、気候対策という共通課題が後景に退き、結果的に各国が自らの安全にも不利益を招きうる、と述べています。
中国本土の関与は「協力重視」と位置づけ
論考では、中国本土が「近北極国(near-Arctic state)」として、国際法に基づく関与、共同の科学調査、北極評議会の枠組みへの参加、そして「氷上シルクロード(Ice Silk Road)」などを通じ、対立ではなく協力を重視してきたという立場が示されています。
これからの焦点:抑制と透明性、そして対話の回復
北極は、地域住民の生活の場であり、地球の気候を調整する要でもあります。軍事と競争の論理が前に出るほど、協力の装置が止まり、誤算のコストが上がる——。2026年のいま問われているのは、短期の優位を競うより、抑制・透明性・包摂的な対話をどう取り戻すか、なのかもしれません。
Reference(s):
Unilateralism and hegemonism: The global risks of U.S. Arctic strategy
cgtn.com







