北部ケニア干ばつ、牧畜民の「移動」が命綱に——食料危機が深刻化
北部ケニアで雨が3季連続で振らず、家畜の大量死と栄養失調が広がっています。いま注目されているのが、牧畜民が家畜とともに水と草を求めて移動する「牧畜移動(パストラル・モビリティ)」という生存戦略です。
雨が来ない――北部ケニアで起きていること
北部ケニアでは干ばつの影響で、畑は作物が育たず、水場は枯れ、地域の暮らしの背骨である家畜が「警戒すべき規模」で死んでいるとされています。その結果、特に5歳未満の子どもや妊婦の栄養不良が増え、食料不安が深まり、生活の維持が難しくなることで教育も中断しやすくなっています。
「急性の食料不安」に直面する人が拡大
ケニア国家災害管理当局(National Disaster Management Authority)によると、現在、約176万人が急性の食料不安に直面し、緊急支援を必要としています。このうち17万9000人以上は、すでに緊急段階(emergency conditions)にあるとされ、マンデラ、トゥルカナ、ワジル、バリンゴなどの県で状況が厳しいといいます。
また、2026年1月までに最大212万人が急性の食料不安に陥るとの見通しも示されており、2026年1月下旬のいま、危機は「予測」ではなく「現場の現実」として迫っていることがうかがえます。
家畜は「資産」以上——食料、貯蓄、尊厳まで支える存在
ケニアの乾燥・半乾燥地域では、家畜は単なる経済資産ではありません。食べ物であり、貯蓄であり、アイデンティティであり、治安や安心にもつながる基盤です。トゥルカナ、マルサビット、マンデラ、ワジル、ガリッサなどでは、多くの世帯が牧畜で生計を立てています。
さらに全国的に見ても、家畜はケニアの肉や乳の供給に大きく関わり、食と栄養の安全保障の中心にあるとされています。つまり、家畜の損失は地域の危機にとどまらず、社会全体の脆弱性にも波及し得ます。
生き延びる鍵は「牧畜移動」——干ばつ下の合理的な選択
干ばつが長期化し、頻度も増すなかで、暮らしをつなぐ重要な戦略として浮上しているのが牧畜移動です。雨量が不安定な土地では、家畜を一か所に固定せず、草地や水を求めて移動することで、家畜の生存確率を上げ、結果として家族の栄養と収入を守ります。
「移動を制限すると、守るはずのものが壊れる」
環境・気候変動レジリエンスの専門家であるモニカ・ンデリトゥ氏は、干ばつを「環境危機にとどまらない、社会・経済の非常事態」と表現します。
「干ばつは環境危機だけではなく、社会・経済の緊急事態です。家畜が死ねば、栄養、収入、健康、教育、尊厳まで、すべてが崩れます」
さらに同氏は、移動制限のリスクについても警鐘を鳴らしています。
「移動を制限しても生態系は守れません。むしろ壊します。そして群れが失われれば、ケニアは食料、収入、安定を失います」
マンデラ県では栄養失調が最大の人道課題に
マンデラ県では影響がすでに深刻で、ケニア赤十字社によると、栄養失調が最も重大な人道上の脅威として浮上しています。特に5歳未満の子どもと高齢者が厳しい状況に置かれているとされます。家畜の損失が積み上がる一方で食料価格が上がり、世帯のやり繰りをさらに圧迫しています。
このニュースをどう読むか——「気候」だけで終わらない連鎖
今回の干ばつは、雨の不足という自然条件から始まりながら、次のように生活全体へ連鎖していきます。
- 水と草の枯渇 → 家畜が弱る・死ぬ
- 家畜損失 → 食料(乳・肉)と現金収入が同時に減る
- 購買力低下+食料価格上昇 → 栄養失調が拡大
- 生計の不安定化 → 教育の中断など、将来への影響が長引く
だからこそ、牧畜移動は「伝統」ではなく、変化する気候の下での合理的な適応策として捉え直されつつあります。移動をどう支え、どう調整し、どう安全に行うか——その設計が、2026年1月のいま、危機対応の現実的な論点になっています。
Reference(s):
cgtn.com








