南鳥島沖6000mのレアアース試掘、日本の深海採掘は何が壁になるのか
2026年2月1日、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が南鳥島周辺の水深約6,000メートルで「海底泥からレアアース(希土類)を試験的に回収した」と発表しました。供給の選択肢を広げる狙いがある一方、技術・採算・環境の3点で不確実性が大きい――専門家の見立てが、いま注目されています。
何が起きた?:南鳥島沖での“海底泥”レアアース回収試験
今回の試験は、南鳥島周辺の深海底にある泥(海底泥)からレアアースを取り出す取り組みです。レアアースはモーターや電子部品など幅広い用途があり、安定供給の観点からも関心が集まりやすい素材です。
ただし、深海は陸上と比べて作業条件が厳しく、技術面・コスト面・環境面のハードルが同時に立ち上がります。
焦点1:技術面—「試せた」ことと「自前で回せる」ことは別
中国開発研究院(China Development Institute)で「持続可能な発展とブルーエコノミー」を担当する胡振宇氏は、今回の取り組みの戦略的な意味を認めつつも、現時点では未解決の課題が多いと指摘します。
海外製の揚泥(ようでい)装置に依存
試験で用いられたのは、英国製のスラリーポンプ(泥を液体状=スラリーとして吸い上げる仕組み)で、一般にライザー(揚泥管)とも呼ばれます。過去には装置の納入遅れが原因で計画に影響が出たとされ、サプライチェーンの脆弱性も浮き彫りになりました。
「実海域の複雑さ」で安定稼働できるか
深海では水圧、低温、海流、海底地形などが複雑に絡みます。装置が長期間にわたり安定して稼働できるかは、今後の検証が必要なポイントになります。
焦点2:採算—泥1トンあたり2kg、分離・精製は200工程超
経済性は、深海レアアースの最大の難関の一つです。胡氏は「南鳥島周辺に資源が見込まれるとしても、深海採掘は陸上採掘よりコストが高い」と述べています。
- 回収効率:第一生命経済研究所の推計では、海底泥1トンあたりレアアースは約2kg程度とされ、効率の低さがコストを押し上げる要因になります。
- 分離・精製:レアアースは分離・精製に200以上の複雑な工程が関わるとされ、効率化とコスト管理が難しい領域です。
- 中国本土の陸上採掘とのコスト差:日本の生産コストは、中国本土の陸上レアアース事業に比べて「数倍から、場合によっては数十倍」高くなる可能性がある、という見立ても示されています。
さらに胡氏によると、設備投資は約750億円規模、投資回収期間は最大で16年に及ぶ可能性があるとされ、資本負担と時間軸の長さも論点になります。
焦点3:環境—短期の濁りから、長期の不可逆リスクまで
深海採掘は、環境面の不確実性が大きい分野です。胡氏は、短期・長期それぞれで影響が想定されると述べています。
短期:濁り(堆積物プルーム)と騒音
- 堆積物プルーム:採掘時に舞い上がる泥が濁りとなり、海底付近の生態系(底生生物)に影響し得ます。
- 低周波騒音:機器の低周波音が海洋哺乳類の行動や回遊に干渉する可能性があるとされています。
長期:回復の遅い深海生態系への“戻りにくさ”
深海生態系は回復力が低く、回復速度も遅いとされます。胡氏は、こうした環境での攪乱が固有種の喪失や生態バランスの崩れにつながり得る点に注意を促しています。
ルール作りは途中:国際海底機構(ISA)の規制が未確定
日本側は、独自に定めた環境モニタリング基準に沿って試験を行っているとされています。一方で、深海レアアース採掘を含む領域について、国際海底機構(ISA)が普遍的な規制を最終確定していない状況も指摘されています。
国際的な科学コミュニティや環境団体から懸念が続くなかで、技術・採算だけでなく、環境と倫理の観点からも「どう進めるか」が問われやすいテーマになっています。
いま見ておきたいポイント(2026年2月時点)
今回の試験は“第一歩”としての意味はありますが、商業化までの距離はまだ大きいと見られています。今後の注目点は次の通りです。
- 装置の長期安定稼働:深海での連続運用に耐えられるか
- 分離・精製の現実解:200超の工程をどう短縮・低コスト化するか
- 環境影響の見える化:短期・長期の影響をどう測り、どう公開するか
- 国際ルールとの整合:ISAの規制動向と各国・各地域の合意形成
資源の安定供給をめぐる議論は、技術革新だけでなく、コストの説明責任と、海の環境をめぐる合意の作り方も含めて進んでいきそうです。
Reference(s):
Expert: Japan faces major hurdles in deep-sea rare-earth mining
cgtn.com








