ミュンヘン安保会議で欧州首脳が「戦略的自律」へ――防衛・経済の独立性を強調
欧州の安全保障と経済の前提が揺らぐなか、欧州の首脳たちが「戦略的自律(Strategic Autonomy)」を強く打ち出しました。2月のミュンヘン安全保障会議(第62回)では、防衛だけでなくエネルギー、貿易、重要原材料、デジタル技術まで含めた「依存の見直し」が主要テーマとして浮上しています。
ミュンヘン安保会議で何が語られたのか
今回の会議では、国際秩序の不安定化と、米欧関係(トランスアトランティック関係)の距離感の変化への危機感が、複数の発言に共通していました。
フォン・デア・ライエン委員長:結束を内側から揺さぶる動きへの警戒
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2月14日(土)、「外部勢力が、連合を内側から弱体化させようとする明確な脅威がある」と述べたとされています。そのうえで欧州は、安全と繁栄に関わるあらゆる領域で、より独立的にならざるを得ないという認識を示しました。
対象として挙げた領域は幅広く、防衛、エネルギー、経済、貿易、原材料、デジタル技術などが含まれます。
スターマー首相:防衛産業の「欧州統合」と「より欧州的なNATO」
英国のキア・スターマー首相は同じく2月14日(土)、「ハードパワーは時代の通貨だ」と述べたとされます。さらに「より欧州的なNATO」を掲げ、能力(戦力・装備)、支出、調達の統合を進め、共同の欧州防衛産業を築く必要性を訴えました。
スターマー氏は、欧州が自らの足で立ち、人々の暮らしや価値観を守るべきだという趣旨も強調しています。
メルツ首相:権利とルールに基づく秩序は「もはや存在しない」
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は2月13日(金)の会議冒頭、権利とルールに基づく国際秩序は「もはや存在しない」と述べ、世界は「力、そして大国政治によって明確に特徴づけられる時代」に入ったという認識を示しました。
加えて、米欧のパートナーシップは自明のものではなくなり、「欧州と米国の間に亀裂がある」と警告。米国の指導的立場についても「少なくとも争われ、あるいはすでに失われた可能性がある」と述べ、欧州が自らの強みで利益と価値を守る必要を訴えました。
マクロン大統領:「地政学的パワー」へ、バリューチェーン全体の依存を下げる
フランスのエマニュエル・マクロン大統領も2月13日(金)、欧州は「地政学的パワー」になることを学ばなければならないと述べたとされます。さらに、バリューチェーン(供給網)全体で依存を減らすための「欧州優先(European preference)」政策を提唱しました。
マクロン氏が強調したのは、リスクを完全に断つというより、過度な依存を減らしてショックに耐える(デリスキング)という発想です。
「戦略的自律」とは結局、何を変える話なのか
戦略的自律は一言でいえば、危機のときに他者の判断や供給に左右されない状態を、欧州として増やすという考え方です。今回の議論から見えてくる論点は、主に次の3つです。
- 防衛:装備や弾薬、補給、共同調達、産業基盤の強化
- エネルギー・原材料:調達先の分散、価格変動への耐性、供給途絶リスクの低下
- デジタル・産業:重要技術やインフラの確保、サプライチェーンの脆弱性の低減
ここで重要なのは、「孤立」や「分断」を目指すというより、相互依存のなかでも弱点を減らす方向性が語られている点です。
今後起きうる変化:防衛調達から産業政策まで
会議での発言をつなぐと、具体化しやすい動きとしては次のようなものが想定されます。
- 共同調達・共同生産の拡大:国ごとに分散した装備体系や調達をまとめ、コストと供給の安定性を高める
- 「欧州域内で回る」防衛産業の強化:部品・整備・弾薬など、継戦能力を支える領域に投資が集まりやすい
- エネルギーと重要原材料の調達分散:市場・供給途絶のショックを吸収できるよう、ルートを複線化する
- デジタル分野の自律性:基盤技術や重要インフラをめぐる政策が、経済政策と一体化しやすい
読みどころは「米欧の亀裂」より、その先の設計図
メルツ首相が言及した「亀裂」は、センセーショナルに響きます。ただ、今回の会議で同時に見えてきたのは、欧州が目指すのが単なる距離の取り方ではなく、危機の時代に耐える設計図(防衛・産業・供給網の組み直し)だということです。
防衛、エネルギー、デジタル、原材料はそれぞれ別テーマに見えますが、国際情勢が揺れるほど「どこまで自分たちで確保できるか」という一点で結びつきます。2026年の議論は、その結び目が一段強く締まった場だったと言えそうです。
この先の焦点は、スローガンが予算・調達・規格統一といった実務に落ちるのか、そして「欧州的なNATO」構想が同盟の枠組みの中でどのように整合していくのか。会議後の政策パッケージや各国の予算方針が、次の手がかりになりそうです。
Reference(s):
European leaders call for strategic autonomy amid global turbulence
cgtn.com







