英国の若者失業率が10年ぶり高水準、最低賃金政策に再考迫る
英国で若者(16〜24歳)の失業率が10年ぶりの高水準に達し、中心左派の労働党政権が掲げる「若年層だけ低い最低賃金を段階的に廃止する」方針に、厳しい問いが突きつけられています。
若者失業率は16.1%へ:2025年末に急上昇
今週公表された公式統計によると、英国の16〜24歳の失業率は2025年10〜12月期に16.1%となりました。2025年半ばの13.8%から上昇し、COVID-19パンデミック期に記録した9.2%未満の低水準から大きく離れています。
さらに、英国の若者失業率は現在、ユーロ圏を上回る水準にあるとされています。
何が起きている?「低賃金の求人」が細っているという見方
背景として指摘が多いのが、最低賃金の大幅な引き上げと、2025年4月に実施された雇用主の社会保障負担(社会保険料)の増加、そして景気の逆風です。一方で、人工知能(AI)の普及がどこまで影響しているかは、現時点では「証明が難しい」とされています。
求人サイトIndeedのシニアエコノミスト、ジャック・ケネディ氏は、英国ではこの3年間で最低賃金に近い水準の仕事の求人が、高賃金の職種よりも大きく減ったと説明します。これはドイツやフランスとは逆の動きだといいます。
ケネディ氏は、低賃金求人の弱さが「国民保険(社会保険)引き上げや最低賃金引き上げなど、政策変更の影響」を示している可能性があると述べています。
打撃を受けやすい業界:接客・小売、そしてITも
英・国立経済社会研究所(NIESR)のシニアエコノミスト、ベン・キャスウェル氏によると、公式データでは2025年4〜10月にかけ、民間部門の失業増の中でも宿泊・外食(ホスピタリティ)と小売で上昇が目立ったとされています。若年層が多く働く業種ほど影響が出やすい、という構図が浮かびます。
また、IT分野でも平均以上の雇用減が見られ、AIの影響の可能性も示唆されています。ただしキャスウェル氏は、賃金コスト上昇に対応して企業が一斉に「省人化投資」を進めている明確な証拠は、全体としては乏しいとも述べています。
最低賃金は「上げてきた」—その成功体験が揺れる局面
英国は1999年に最低賃金を導入して以降、多くの期間で「最低賃金が雇用を損なった明確な兆候は小さい」とされてきました。失業率(全体)も2022年に3.6%と、1970年代以来の低水準を記録しています。
前政権(保守党)は、主要な最低賃金を賃金中央値の3分の2まで引き上げる目標を掲げ、欧州でも所得に対して高い水準の部類になったとされます。年齢別の低い最低賃金についても、23〜24歳は2021年に廃止、21〜22歳は2024年に廃止されました。
労働党政権の公約と、いまの「迷い」
現在の労働党政権は、18〜20歳の低い最低賃金区分も廃止すると公約しています。
- 主要な最低賃金:時給12.21ポンド(過去3年で29%増)
- 18〜20歳:時給10ポンド(過去3年で46%増)
- 18〜20歳は4月に10.85ポンドへ上昇予定
一方、英紙タイムズは、政府が「18〜20歳の低い賃金区分をなくす長期計画」を撤回する可能性を検討していると報じました。これに対し政府報道官は、最低賃金の引き上げは「低賃金労働者が正当に報われるため」だと述べています。
欧州でも割れる「若者の最低賃金」設計
若年層の最低賃金の扱いは、欧州でも一様ではありません。
- フランス:英国並みに高い最低賃金だが、特定の訓練的な役割を除き若年層だからといって下げない
- オランダ:18歳は、3歳上の層の時間給の半分
どの設計が雇用と所得のバランスを取りやすいのか。英国の議論は、他国の制度差も映す形になっています。
現場の肌感覚:「応募しても返事がない」
数字の動きは、生活の実感とも結びつきます。ロンドン南東部で働く19歳の映画学生アレックス・ケリーさんは、家の近くのクラブで16歳から働いてきたものの、現在の仕事は勤務時間が安定せず、学業と両立できる他の仕事も見つけにくいといいます。
ケリーさんは「オンライン応募だと、ほとんど返事がない。知り合いには応募自体をやめた人もいる」と話しています。
リバプールで学ぶ20歳のエルサ・トーレスさんも、勤務していた店が閉店した後、70件応募してもパートタイムの仕事が見つからない状況だとされています。
次の焦点は「2027年の最低賃金」—慎重論も
2027年の最低賃金水準は、企業・学界・労組の代表で構成される公的機関の助言を踏まえ、10〜11月に決定される予定です。
低所得層の課題を扱うシンクタンク「レゾリューション・ファウンデーション」のエコノミスト、ナイ・コミネッティ氏は、最低賃金の引き上げが若者失業の原因だという証拠は「決定的(cast-iron)ではない」としつつも、現状の若者労働市場が不安定な局面では、若年層最低賃金の大幅な引き上げは「望ましくない方向」になり得る、と慎重さを促しています。
2026年の英国は、若者の生活を支える賃上げと、若者が入り口でつまずかない雇用の受け皿づくりという、両立が難しい課題に直面しています。4月の賃上げと、その先の制度設計がどのように調整されるのか。数字だけでなく、若者の「応募しても返事がない」という声が、政策議論の温度を測る指標になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








