ナイジェリアで医療過誤への不安拡大:病院の安全は守られるのか video poster
【リード】ナイジェリアで、医療ミスや医療過誤(医療上の過失)とみられる事例の報告が増え、病院の安全性をめぐる不安と議論が広がっています。治療を受けるはずの場所で、なぜ「取り返しのつかない結果」が起きてしまうのか――背景には、現場の疲弊と制度の壁が重なっているようです。
相次ぐ「あり得ないはず」の医療トラブル
報告されているのは、家族が「医療ミス」「不注意」と訴えるケースです。たとえば、手術後にガーゼが体内に残っていたとされる事例や、一般的な処置の後に幼い子どもが行方不明になったとされる事例など、病院の基本的な安全管理を揺さぶる話が含まれます。
しかも一部では、治療後に長期の後遺症が残るなど、当事者の人生に直接的な影響が及んだとされています。SNSでの共有も相まって、「自分や家族も同じ目に遭うのでは」という不安が可視化されやすい状況です。
「日常的な処置」が人生を変えた:アリスさんのケース
双子の母であるアリス・チディエベレさんは、妊娠中の合併症で赤ちゃんを失い、医師から子宮内容除去(子宮の処置の一種)を受ける予定になりました。手技としては珍しくない医療介入だといいます。
しかし彼女は、その処置を境に月経が止まり、その後妊娠できなくなったと訴えています。
本人の証言では、処置は学生医師に任され、「試してみたい」と申し出た学生医師が担当した場面があったといいます。チディエベレさんは「そのときに損傷が起きたのではないか」と感じていると話します。
その後も、複数回の検査や処置(子宮鏡検査や不妊検査など)を重ね、最終的には代理出産を選択。経済的・身体的・精神的な負担が大きかったと語っています。
- 繰り返される検査と処置による消耗
- 家計への打撃(医療費・関連費用)
- 将来設計やメンタルヘルスへの影響
なぜ防げないのか:現場の「見えにくい」リスク
患者安全の専門家や支援者は、こうした経験は個人の不運だけでは片付けられないと指摘します。背景には、病院内の構造的な圧力があるという見方です。
臨床ガバナンス(医療の質と安全を組織として守る仕組み)の専門家オビンナ・アニャウン氏は、重要なのは「個人の注意力」に頼りすぎない設計だと述べます。ポイントとして挙げられているのは、次のような論点です。
安全を“自動化”するプロトコル
誰が担当しても同じ水準で安全が担保されるように、標準手順(プロトコル)を明確にし、日常的に守られる状態にする必要があるといいます。
疲労と過密な手術スケジュール
執刀医が1日に10件、15件の手術をこなすことがあるという指摘もあり、疲労がミスの温床になり得るとされます。負荷を調整する仕組みや、パフォーマンスを点検する体制が弱い場合、エラーが表面化しにくいという問題もあります。
術後レビューの不足
手術や処置の後に、チームが「何がうまくいったか」「何が危うかったか」を振り返る仕組み(構造化されたレビュー)が少ないと、同じリスクが繰り返されやすい――アニャウン氏はそう警鐘を鳴らします。
「正しさ」を証明する難しさ:医療過誤の法的ハードル
治療結果に疑問が生じたとき、回復と同じくらい困難なのが「説明責任を求めるプロセス」だといいます。法曹関係者によれば、長期化しがちな訴訟、費用負担、そして厳格な証拠要件が、被害を訴える側の心理的・現実的な壁になります。
医療法の専門家ネカバリ・アンナ氏は、すべての「悪い結果」が直ちに法的な過失(ネグリジェンス)と認定されるわけではないと説明します。過失を立証するには、一般に次の要素が問われるとされます。
- 医療側に注意義務(duty of care)があったか
- その義務に違反(breach)があったか
- 違反と傷害の因果関係(injury)が示せるか
アンナ氏は、「医師が害を与えたと言うだけでは足りず、強い証拠が必要になる」と指摘します。結果として、裁判ではなく示談(法廷外の和解)で終わるケースも少なくないといいます。
なお、ナイジェリアには医療・歯科評議会(Medical and Dental Council of Nigeria)のような懲戒・監督の仕組みもありますが、資金、執行力、調査のスピードなどをめぐる課題が残るという声も出ています。
改革への圧力:患者安全を「仕組み」にする動き
患者安全の向上、監督強化、公正な補償に向けた改革を求める圧力は強まっています。ナイジェリア連邦政府は最近、臨床ガバナンスと患者安全を扱う国家タスクフォース(National Task Force on Clinical Governance and Patient Safety)を設置したとされ、専門家は前向きな一歩だと評価します。
一方で、政策を掲げるだけでは現場は変わりにくい、という現実もあります。鍵になるのは、次のような「運用」の部分かもしれません。
- 病院内での監督・教育(特に若手や研修中の医師の指導体制)
- 過重労働を抑える勤務設計と、エラーを拾う監視の仕組み
- インシデント(事故・ヒヤリハット)の報告と共有を萎縮させない文化
- 調査・救済が遅れないための制度設計
治療の場に求められるのは「完璧な個人」ではなく、ミスが起きにくく、起きても早く発見して被害を最小化できる「仕組み」です。2026年2月現在、ナイジェリアの医療現場は、その転換点に差しかかっているようにも見えます。
病院の安全とは、設備や技術だけでなく、透明性、説明、検証の積み重ねで育つもの。今後、タスクフォースの取り組みが、日々の医療の手触りをどこまで変えられるのかが注目されます。
Reference(s):
Alarm over medical negligence and hospital safety in Nigeria
cgtn.com








