南極を外来種から守る「eDNA」実証:船底付着生物をDNAで早期検知へ
南極の海に外来種が入り込むのを防ぐため、環境中に残るDNA(eDNA)を使った「DNAバーコーディング」の試験が進んでいます。オーストラリア南極計画(AAP)は2026年2月23日、船舶が運び得る生物をeDNAで検知し、バイオセキュリティ(生物学的安全管理)の実効性確認に役立つ可能性を示したと発表しました。
eDNAで何が変わるのか:見落としやすい“持ち込み”を可視化
外来の海洋生物は、船の船体に付着して「ヒッチハイク」する形で遠隔地へ移動することがあります。南極・亜南極の海域は独特の生態系を持つ一方で、いったん侵入・定着が起きると対処が難しいとされます。そこで注目されているのが、海水など環境試料から生物由来のDNA断片を読み取るeDNAという手法です。
今回の研究:タスマニア→マッコーリー島航海(2022年)のデータで検証
AAPによると、研究チームは2022年にオーストラリアの島州タスマニアから亜南極のマッコーリー島へ向かった航海の過程で、環境中のeDNAを採取・分析しました。目的は、船体付着などで運ばれやすい種(侵入リスクが想定される生物)を検知できるか、そして検知結果が船体洗浄などの対策確認に使えるかを確かめることでした。
研究成果は学術誌「Science of The Total Environment」に掲載されたとされています。
「DNAバーコーディング」とは?—短い“識別用DNA”で種を推定
DNAバーコーディングは、生物種の識別に役立つ特定領域のDNA配列を手がかりに、どんな生物が存在するかを推定する考え方です。研究では、海水や土壌などの試料に含まれるeDNAを解析し、そこに由来する生物を同定していきます。
オーストラリア・タスマニア大学の分子生物学者レオニー・スーター氏はAAPの発表で、次の趣旨を述べています。
「土や水など環境サンプルを集めることで、そこに含まれるDNAを分析し、どんな生物がいるのかを特定できます」
期待される実務的な使い方:洗浄の“効果確認”と定着前の早期発見
今回の研究が示したポイントは、eDNAモニタリングが船体のバイオファウリング(船体などへの生物付着)管理の妥当性確認に使える可能性です。具体的には、次のような運用が想定されます。
- 船体洗浄・点検の効果検証:洗浄前後や寄港前後でeDNAを比較し、対策が機能しているかを確認する
- 侵入リスク種の早期検知:目視で見つけにくい段階でも“痕跡”として検出し、定着前に対応判断につなげる
- 監視の省力化:広い海域での生物調査を、環境試料の採取・解析で補完する
一方で残る論点:検知=定着ではない、だから運用設計が重要
eDNAは「そこにDNAがある」ことを示す一方、必ずしも生物がその場で繁殖・定着していることを意味しません。海流や船舶活動でDNAが運ばれる可能性もあり、検知結果をどう判断し、どの段階で追加調査や対策を打つかという運用設計が鍵になります。
また、種の同定精度は参照データベース(既知配列の蓄積)や採取・分析手順の標準化にも左右されます。現場導入を進めるほど、手法の統一とデータの共有が重要になりそうです。
南極のバイオセキュリティは「予防」が主役になりやすい
南極・亜南極はアクセス自体が限られ、対策資源も制約されがちです。だからこそ、侵入が起きてからの駆除よりも、侵入を起こさないための点検・洗浄・監視が中心になります。今回のeDNA手法は、その“予防”をデータで支える道具として、現場の意思決定を静かに変えていく可能性があります。
Reference(s):
Scientists trial e-DNA to guard Antarctica from invasive species
cgtn.com








