中国で広がるネイジュアン 社会の競争疲れにどう向き合うか
中国でネイジュアンと呼ばれる過度な競争が、教育から職場、地方経済まで社会の隅々に広がっています。本記事では、その実態と中国指導部が進める是正の動きを整理します。
ネイジュアンとは何か 中国で広がる新しいキーワード
中国のソーシャルメディアでは近年、ネイジュアンという言葉が広く使われるようになっています。しばしば英語でinvolutionと訳されますが、単に一生懸命働くことを指すのではありません。
ネイジュアンが示すのは、誰もが相対的な位置を保つためだけに、これまで以上に努力せざるを得ない状況です。努力しても見返りは次第に小さくなり、多くの人が疲弊していく構図が前提にあります。
受験競争が象徴するネイジュアン
大学入試をめぐっては、課外活動や資格を積み上げる実績の軍拡競争というイメージが語られています。他の受験生に追いつき、追い越すために、さらに多くの活動を詰め込まざるを得ないという感覚です。
この現象は中国では特に顕著だとされています。包括的な人物評価が大学だけでなく、高校、中学校、小学校にまで広がる中、例えば九歳の子どもが、名門中学校への進学のために睡眠時間や友人と遊ぶ時間を削り、課外活動に追われるケースもあります。
学校の外でも続く終わりなき競争
過度な競争は教育現場にとどまりません。ホワイトカラーの職場では、残業時間の長さを競い合うように働き、心身の負担から抑うつ的な状態に追い込まれる人もいるとされています。
製造業の現場では、企業同士が価格を引き下げ続け、場合によっては赤字覚悟で最安値を提示することもあります。短期的な受注を優先するあまり、長期的な持続可能性が損なわれかねない状況です。
地方政府の間でも、企業誘致をめぐる競争が激しくなっています。税制や補助金などで最も有利な条件を提示しようとするあまり、将来の財政や地域経済への影響が十分に考慮されない懸念が指摘されています。
タンピン 競争から距離を置く個人の選択
こうしたネイジュアンに対して、一部の中国の人々はタンピン、つまり横たわるという個人的なカウンター戦略を掲げています。過酷な競争から身を引き、昇進や結婚、マイホーム取得といった従来の節目を無理に追わない生き方を選ぶ考え方です。
タンピンは、報われにくい努力を続けることへの疑問から生まれています。英語圏のインターネットで使われる、reject humanity, return to monkeyというミームになぞらえて語られることもあり、社会の期待に背を向けて、より素朴で負担の少ない生活を志向するイメージが重なります。
中国指導部も問題を認識 政策議論が本格化
ネイジュアン的な競争は、社会の健全な発展を損ないかねないとの認識から、中国の政策担当者も対応に乗り出しています。報道によれば、二〇二三年末には新華社通信が中央の関係者の話として、一部の新興産業でネイジュアン型の競争が見られると伝えました。
さらに、七月に開かれた中国共産党指導部の会合では、企業に対し、いわゆるラットレース型の非合理な競争を防ぐよう呼び掛けが行われました。これはネイジュアンに対処する際の公式用語と位置づけられています。
最近北京で開かれた中央経済工作会議の後には、この流れを一歩進め、ネイジュアンを単に防ぐだけでなく、企業と地方政府の行動を規律づけることで積極的に是正していく方針が示されました。
新エネルギー車と太陽光産業への懸念
中国共産党中央財経委員会弁公室の常務副主任を務める韓文秀氏は、新エネルギー車や太陽光パネルなど、中国が力を入れて育成してきた新産業が新たな課題に直面していると指摘しています。
韓氏は、非合理な競争に対処し、こうした産業の健全な発展を確保することで、世界市場での競争上の優位を維持する必要があると強調しました。そのために、市場メカニズムと法的手段を適切に活用し、技術や環境保護、安全性、エネルギー消費などの基準を高めることが重要だと述べています。
地方政府の投資誘致競争も是正対象に
上海財経大学学長の劉元春氏は、地方政府の間で投資誘致をめぐるネイジュアン的な競争が起きていると指摘し、今後はこの分野にもメスが入るとの見方を示しています。短期的な投資獲得を優先するあまり、税収や雇用、地域の産業構造に与える長期的な影響が軽視されることが課題となっているためです。
日本の読者にとっての問い ネイジュアンを自分事として考える
受験競争の激化や長時間労働、価格競争の行き過ぎといったテーマは、日本社会でも耳慣れたものかもしれません。ネイジュアンやタンピンという言葉を通じて、中国で今何が起きているのかを知ることは、自分たちの働き方や学び方を見直すきっかけにもなります。
私たち一人ひとりが考えたいのは、次のような点です。
- 自分の努力が適切に報われていると感じられるか
- 所属する組織や社会のルールは、健全な競争を生み出しているか
- 立ち止まる、あるいはペースを落とす選択肢が許容されているか
中国で進むネイジュアン是正の試みは、新産業の競争力を維持しつつ、人々の疲弊をどう防ぐかという難しいバランスへの挑戦でもあります。今後、どのような具体策が示され、どのような変化が生まれていくのか、引き続き注目されます。
Reference(s):
Confronting 'neijuan': China addresses unhealthy competition
cgtn.com








