「アメリカ・ファースト」は多国間主義の欠如 東京の経済学者が米中貿易を語る video poster
米国の「アメリカ・ファースト」政策は、多国間主義への背を向ける動きなのか──東京の経済学者が、米中貿易と関税をめぐる課題を指摘しています。国際ニュースとしての米中関係を、日本からどう読み解けばよいのでしょうか。
東京の経済学者が見る「アメリカ・ファースト」
東京にある政策研究大学院大学(National Graduate Institute for Policy Studies)の経済学者、Xing Yuqing(シン・ユーチン)教授は、ドナルド・トランプ米大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」について、「多国間主義の感覚が基本的に欠けている」と指摘しました。
トランプ大統領は「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」することを目標に掲げていますが、Xing教授は、その目標の達成手段として選ばれているアプローチが、多国間の枠組みや協調を重視しない方向に傾きがちだと見ています。
ここでいう多国間主義とは、複数の国が共通のルールや枠組みを作り、協力しながら問題を解決していく考え方です。対照的に、「自国第一」の発想が強くなると、二国間交渉や一方的な措置に依存しやすくなり、他国との信頼関係や長期的な安定を損なうおそれがあります。
米中貿易は「双方に利益」
Xing教授は、米中貿易の実態について「貿易は中国と米国の双方に利益をもたらしている」と強調しています。国際貿易は、一方が一方的に得をするゼロサムゲームではなく、双方がそれぞれの強みを生かし、消費者や企業にメリットを生む構造になっているという見方です。
とくに、米中間のような大規模な貿易関係では、
- 米国側は、比較的安価で多様な製品や部品を輸入できること
- 中国側は、巨大な米国市場にアクセスできること
- グローバルなサプライチェーン(国際的な生産・供給網)が維持・発展すること
といった形で、広い意味での「相互利益」が生じます。Xing教授の指摘は、こうした構造をふまえたうえで、一方的な追加関税が双方にとって負担になるという問題意識につながっています。
関税より「交渉」で解決を
Xing教授は、もし米国政府が現在の米中二国間貿易の状況に不満を持つのであれば、「追加関税を課すのではなく、中国と交渉を行うべきだ」と主張します。
教授は、トランプ大統領が第1期政権で行ったように、協議と交渉を通じて問題を解決しようとするアプローチこそが、望ましいとしています。関税は一見すると強い手段に見えますが、
- 輸入品の価格上昇を通じて、自国の消費者や企業にも負担を与える
- 相手国からの報復措置を招きやすく、対立がエスカレートしやすい
- 長期的には、投資や生産拠点の分断につながるリスクがある
といった副作用があります。そのため、Xing教授は、多国間主義やルールに基づく交渉を重視する姿勢が、結果として自国の利益を守るうえでも重要だと示唆していると言えます。
多国間主義がもたらす安定
「アメリカ・ファースト」と対比される多国間主義は、抽象的な理念に見えますが、国際経済にとっては現実的な安定装置でもあります。複数の国が協調してルールをつくることで、
- 予測可能な貿易環境が維持され、企業が中長期の投資判断をしやすくなる
- 一国の政策変更が、世界経済全体に与えるショックを軽減できる
- 対立が生じた場合でも、対話や調停の場を通じて、エスカレーションを抑えやすい
といったメリットが生まれます。Xing教授が「多国間主義の感覚が欠けている」と指摘する背景には、こうした国際経済の安定性への懸念があると考えられます。
日本とアジアの読者にとっての意味
米中貿易をめぐる動きは、日本やアジアの経済にも直接・間接の影響を与えます。生産拠点やサプライチェーンを米中両方に持つ企業も多く、追加関税や貿易摩擦が長引けば、部品調達や輸出入のコスト、投資計画にも影響が出る可能性があります。
また、日本の消費者にとっても、スマートフォンや家電、日用品など、日々の生活に身近な製品の価格や選択肢が、米中関係の変化によって左右される場面が増えています。国際ニュースとしての米中関係は、決して「遠い国の話」ではありません。
私たちが押さえておきたいポイント
今回のXing教授の指摘から、読者として押さえておきたいポイントを整理すると、次のようになります。
- 「アメリカ・ファースト」は、自国重視のスローガンである一方、多国間主義との緊張関係をはらんでいる
- 米中貿易は双方に利益をもたらしており、一方的な追加関税はその利益を損なうおそれがある
- 不満がある場合こそ、関税ではなく交渉という手段が、長期的な安定につながる
- 多国間主義は、企業活動の予測可能性や、市場の安定を支える重要な仕組みである
- 米中関係の変化は、日本やアジアの経済・日常生活にも波及する
ニュースを追うとき、「どの国の利益か」という視点だけでなく、「どの枠組みやルールに基づいているか」という視点も合わせて持つことで、米中関係や国際経済のニュースが、より立体的に見えてきます。
多国間主義と「アメリカ・ファースト」のあいだで、世界はどのようなバランスを探っていくのか。今後の米中関係を見守るうえで、Xing教授のコメントはひとつの手がかりとなりそうです。
Reference(s):
Economist: 'America First' reflects its lack of multilateralism
cgtn.com








