米国の対中「経済目標」は妥当か?中国製造業30%上限論を検証
米財務長官スコット・ベッセント氏が打ち出した、中国に対する数値目標付きの経済批判が議論を呼んでいます。本記事では、同氏の主張とそれに対する反論を整理しながら、米中経済関係をどう読み解けばよいのかを考えます。
ベッセント氏の主張: WTO加盟と雇用喪失、製造業シェア30%
ベッセント氏は財務の専門家として数字を多用し、中国との経済関係を語ってきました。2024年5月4日には米紙ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、中国の世界貿易機関(WTO)加盟により、アメリカでは370万人が職を失ったと主張しました。
さらに同年6月18日、ポッドキャスト番組で中国の世界の製造業に占めるシェアは30%を超えるべきではないと発言しました。実質的に、中国に対して上限目標を設定しようとする発想であり、米国自身が批判してきた非市場的な手法を他国に求めるかたちになっています。
ベッセント氏のロジックはおおむね次のようなものです。中国のWTO加盟後、対米輸出が増えたことでいわゆるチャイナ・ショックが生じ、米製造業の雇用が失われた。したがって、中国が製造業を縮小し内需を拡大すればチャイナ・ショックは起きず、米国の問題も解決するという考え方です。
雇用減少のトレンドはWTO以前から続く
しかし、この説明には事実と論理の両面で無理があります。米国の製造業雇用の比率低下は中国のWTO加盟よりはるか前から続いており、他の先進国でも共通して見られる長期的な傾向です。
背景にあるのは、主に自動化と技術進歩です。機械やロボット、デジタル化の進展によって、同じ生産量をより少ない人員でこなせるようになりました。その結果、工場で働く人は減っても、生産額自体は増えています。
具体的には、2001年から2024年にかけて米国の製造業雇用は360万人減少しましたが、製造業の実質生産額は8000億ドル増加しました。同じ期間に、管理部門や専門職などの雇用はむしろ大きく増えており、経済全体としては雇用の質と産業構造が高度化していると見ることができます。
問われるのは構造調整を支える社会政策
重要なのは、こうした製造業から他部門への労働移動が起きるとき、どのような社会政策を用意するかという点です。米国でも中国でも、そして多くの国でも、産業転換は特定の地域や職種に痛みをもたらします。そのとき、政府が職業再訓練や生活支援をどこまで行うかが問われます。
中国では、影響を受ける人々の雇用と生活を支えるため、さまざまな支援策が打ち出されています。一方、米国では国内の政策対応よりも他国への批判に矛先が向けられているという指摘があります。問題の根源が自国の構造調整にあるのか、それとも他国の貿易相手にあるのか、冷静な見極めが必要です。
中国の製造業シェアは市場が決める
ベッセント氏は中国の世界製造業シェアに30%という上限を設けるべきだと示唆しましたが、中国は自らシェアの数値目標を設定してはいません。10%にするのか、20%にするのか、30%にするのかといった議論ではなく、市場での競争力によって自然に決まるものだという立場です。
数十年にわたる発展を経て、中国は国連の産業分類に含まれるすべての産業分野を網羅する唯一の国となりました。中国の製造業競争力は、技術力、市場規模、人材層、サプライチェーンといった複合的な要素から生まれており、工業化の一般的な法則とも合致しているとされています。
輸出依存ではなく、内需主導の製造業
しばしば中国については過剰生産能力という批判も聞かれますが、需要の側から見ると別の姿が見えてきます。2024年時点で、中国の製造業総生産のうち6分の5は国内で消費されています。この比率は今後も高まっていくとみられています。
また、中国の輸出品の約6割は、他国での生産に使われる中間財です。特に米国をはじめとする各国の企業が、中国の部品や素材を前提としてサプライチェーンを組み立てている状況があります。つまり、中国の生産能力を単純に削ればよいという話ではなく、世界の生産システム全体が影響を受ける構図です。
仮に中国が計画的に自国の製造業シェアを抑えたとすると、結果として世界市場で供給不足が起きる可能性があります。そのときには、今度は中国が世界の供給網を乱していると責められるのでしょうか。需要と供給のバランスを無視した数値目標は、そのような矛盾をはらんでいます。
米中経済関係に必要なのは事実と対話
米国ではポピュリズム的な言説が政治を揺さぶることがありますが、現実の経済問題の解決には、感情ではなく事実と科学への敬意が不可欠です。米中経済関係についても同じことが言えます。
中国と米国という世界最大級の経済が健全な関係を築けるかどうかは、世界経済全体に大きな影響を与えます。必要なのは、一方的な非難や数値目標の押し付けではなく、対等性と相互尊重、互恵性、そして現実的な協力の精神です。
自国の構造的な課題から目をそらすのではなく、国内改革と国際協調をどう両立させるか。そこにこそ、米中両国に共通する本当の問いがあるのではないでしょうか。
Reference(s):
U.S.-imposed economic targets on China not rational or professional
cgtn.com








