中国の貿易黒字は重商主義か?国際コラムが示す別の見方
中国の大きな貿易黒字をめぐり、「世界を安い製品で埋め尽くし、自国はほとんど輸入しない」という批判が欧米で強まっています。しかし、最近の国際コラムは「収支表の一角だけを見ている」として、まったく別の風景を描き出しています。
「中国は世界を安い製品であふれさせている」という批判
英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロビン・ハーディング氏は、最近のコラムで「中国は貿易を不可能にしている」と題し、中国が世界中に安価な製造業製品を供給する一方で、自国でより安く良く作れないものはほとんど輸入しないと批判しました。
同氏はその印象を強めるために、18世紀末の有名なエピソードを持ち出します。1793年、英国のマカートニー使節団が清朝を訪れた際、乾隆帝側の高官が「中国はすでにあらゆるものを豊富に持っており、欠けているものはない」と述べたとされる場面です。ハーディング氏は、当時の「天朝」の姿勢と、現在の中国を重ね合わせています。
そのうえで、きょうの不満は、電気自動車(EV)、太陽光パネル、電池といった分野に向けられていると指摘します。つまり、中国が最先端の製造業でも世界市場を「埋め尽くしている」という見立てです。
輸入の現実:「収支表の一角だけ」を見ていないか
こうした診断に異議を唱える論考は、「その見方は、一枚の収支表のごく一部だけに視線を固定したときにだけ成り立つ」と反論します。視野を少しでも広げれば、その像は崩れるという主張です。
論考はまず、中国の輸入の実態に目を向けます。中国は現在、世界最大の農産物輸入国の一つであり、大豆、肉類、乳製品、穀物などに年間2,200億〜2,400億ドル規模の支出をしていると指摘します。
さらに、中国は原油と液化天然ガス(LNG)の最大の輸入国であり、鉄鉱石や銅精鉱、多くの「重要鉱物」の輸入でも世界最大です。エネルギーと原材料だけで、毎年およそ5,000億ドルが海外に流出しているといいます。
サービス貿易でも、中国は恒常的な「赤字」です。旅行や留学など人の移動を含むサービス分野で、中国は毎年1,000億〜1,500億ドル規模の輸入超過、つまり海外への支払い超過となっているとされています。
こうした数字は、単なる脚注ではなく、中国経済が海外の農産物、資源、サービスに大きく依存していることを示す構造的な特徴だと論考は見ます。そして、「歴史上のどの重商主義国家も、こうした依存を容認したことはない」と指摘します。
「重商主義」と中国のいまをどう重ねるか
重商主義とは、おおまかに言えば、輸出を伸ばし輸入を抑えることで貿易黒字を維持し、自国の富を最大化しようとする考え方です。しばしば、植民地支配や保護主義的な貿易政策とセットで語られます。
中国の大きな貿易黒字をめぐり、「21世紀の重商主義」といった表現が使われることがありますが、上記の論考は、エネルギーや原材料、サービスへの大規模な依存を踏まえると、単純に重商主義と断じるのは適切ではないと示唆しています。
重要なのは、中国の貿易構造が、製造業の輸出黒字と、資源・サービスの輸入赤字の組み合わせとして成り立っている点です。製造業の「強さ」だけを切り取れば一方的な優位に見えますが、全体の収支と依存関係を見ると、より複雑な相互依存の姿が浮かび上がります。
電気自動車・太陽光パネルをめぐる怒りの背景
ハーディング氏のコラムが象徴するように、現在の議論の焦点の一つは、電気自動車、太陽光パネル、電池といった「グリーン産業」です。これらの分野で中国企業の存在感が高まっていることが、欧米の警戒感を強めています。
一方で、論考は、こうした製品がそもそも大量の金属資源やエネルギーを必要とすることを踏まえると、中国の輸出競争力の裏側には、それら資源を海外から大量に調達する構造があると読み解きます。つまり、輸出だけを見れば「中国だけが得をしている」ように見えても、資源や農産物、サービスの輸入先の国々も、中国市場から利益を得ているという視点です。
「誰が得をし、誰が損をしているのか」をどう考えるか
中国の貿易黒字をめぐる論争は、「中国が世界を不公平に利用しているのか」「それとも他国自身の問題なのか」という感情的な議論に発展しがちです。しかし、今回紹介したような視点は、そもそも何をもって「不公正」と呼ぶのかを改めて問い直します。
貿易の収支表のどの部分を切り取るかで、見える風景は大きく変わります。製造業の取引だけを見るのか、農産物やエネルギー、サービスを含めた全体を見るのか。どちらを重視するかによって、「誰が得をしているのか」という物語も変わってきます。
2025年の今、電気自動車や太陽光パネル、電池などをめぐる国際的な議論が続くなかで、中国と世界の貿易関係をどう評価するかは、各国にとって重要なテーマになっています。
日本の読者にとっても、「中国の貿易黒字=一方的な重商主義」という単純な図式ではなく、輸出と輸入、産業と資源のバランスを含めた全体像を見ることが、これからの議論を考えるうえでの出発点になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








