トランプ米大統領、海外製映画に100%関税方針 ハリウッドのグローバル戦略に揺さぶり
トランプ米大統領が、米国外で製作された映画を対象に「100%の関税」を課す方針を改めて示しました。ハリウッドが世界各地で撮影・制作を行う現在のビジネスモデルを根本から揺るがしかねない動きとして、映画業界や投資家の間で波紋が広がっています。
※本記事は2025年12月8日時点で報じられている内容にもとづいています。
トランプ大統領が示した「100%関税」案とは
トランプ大統領は今週月曜日、米国のSNSプラットフォームへの投稿で、米国外で製作され、その後米国に送られるすべての映画に100%の関税を課す考えを表明しました。今年5月にも同様の案に言及しており、その「脅し」を繰り返した形です。
トランプ大統領は、映画産業について「米国の映画製作ビジネスは、他国に奪われてきた」と主張し、海外での制作拠点拡大に強い不満を示しました。
一方で、どの法律や権限にもとづいて100%関税を実施するのかは現時点で明らかになっていません。制度設計や発動プロセスも不透明で、政策としてどこまで現実味があるのかは見通せない状況です。
不透明さとコスト増懸念「答えより疑問が多い」
通信・メディア分野を専門とするPP Foresightのアナリスト、パオロ・ペスカトーレ氏は、今回の方針について「不確実性が大きすぎるうえ、答えよりも多くの疑問を生んでいる」とコメントしています。
ペスカトーレ氏は、現状のままではコスト増が避けられず、その負担は最終的に消費者に転嫁される可能性が高いと指摘。映画制作会社だけでなく、映画館のチケット価格や配信サービスの利用料金にも影響し得るとの見方が出ています。
グローバル化した映画制作と「現実離れ」した要求
トランプ大統領は5月に映画への関税案を初めて持ち出しましたが、対象国や具体的な適用条件についてはほとんど説明していません。このため、関税が特定の国だけに適用されるのか、それとも全ての輸入映画に広くかかるのか、業界関係者は判断できない状態が続いています。
多くの映画関係者は、映画を「完全にアメリカ国内だけで作る」ことは現実的ではないと見ています。現在の映画制作は、以下のように複数の国にまたがるのが一般的だからです。
- 撮影:作品の舞台に合わせて世界各地でロケーション撮影
- 資金調達:複数の国の出資者が関わる共同出資
- ポストプロダクション:編集や音響などを別の国のスタジオで実施
- 視覚効果(VFX):カナダやアジアなどの専門スタジオに外注
また、他国が報復措置として自国での上映や配信に制限をかける「報復関税」や規制強化に出る可能性もあり、貿易摩擦が映画やエンタメ分野にも波及するリスクを指摘する声も出ています。
「国内完結」は無理? 現場が語る制作能力の限界
映画プロデューサーのマーク・ウォルラディアン氏は、映画産業は自動車や家電などの伝統的な製造業とは構造が違うと強調します。作品の内容によっては、特定の国や地域で撮影しなければリアリティが出ないケースも多く、物語の必然性から海外ロケが不可欠になることも珍しくありません。
ウォルラディアン氏は、「すべて国内で撮影せよ」という一律の要件は現実的ではないと指摘します。その理由の一つが、米国内の制作能力の限界です。
同氏によると、例えば人気の撮影地であるジョージア州アトランタは、同時に受け入れられる撮影クルーが3チーム程度に限られており、年間で制作できる作品もおよそ数本規模にとどまります。大手スタジオの膨大な作品需要を考えると、国内スタジオとロケ地だけでは物理的にニーズを満たせないというのが現場の実感です。
インセンティブか関税か 業界が求める「別の選択肢」
ウォルラディアン氏は、望ましい政策として「海外撮影を罰する関税ではなく、既存の米国内施設を最大限活用し、国内撮影を優先しやすくするためのインセンティブ(優遇策)」を挙げています。
実際、5月の最初の関税案の後、アメリカの映画関連の労働組合やギルド(職能団体)の連合体はトランプ大統領宛てに書簡を送り、国内制作を後押しする税制優遇を議会の法案に盛り込むよう求めました。目的は、映画やドラマの撮影を米国内に呼び戻しつつ、過度な負担や混乱を避けることにあります。
ロサンゼルス離れと海外・地方ハブの台頭
ドイツ人の映画監督・プロデューサーであるヤン・シュッテ氏は、ロサンゼルスでの制作コストが極めて高くなっている現状を指摘します。そのため、多くのスタジオはすでに、よりコストの低い米国内の都市や海外の制作拠点へとシフトしてきました。
アトランタ(ジョージア州)やサンタフェ、アルバカーキ(いずれもニューメキシコ州)など、米国内の別都市も撮影地として存在感を高めています。一方で、カナダ、英国、オーストラリアといった国々は、手厚い税制優遇によってハリウッド作品の主要な制作ハブとなってきました。
さらに、アジアやヨーロッパのスタジオとの共同製作も増えており、現地パートナーが資金や市場アクセス、配給ネットワークを提供することで、作品の規模拡大やグローバル展開を後押ししています。
米映画産業の「黒字」と100%関税のインパクト
米映画協会(Motion Picture Association)によると、米国の映画産業は2023年に153億ドルの貿易黒字を記録しました。これは、226億ドル規模の映画輸出が支えているとされています。
一見すると輸出で大きな利益を上げている業界に見えますが、100%の関税が導入されれば、このビジネスモデルは大きな修正を迫られます。
米経済誌フォーチュンによれば、モルガン・スタンレーの米メディア調査責任者ベンジャミン・スウィンバーン氏は、5月5日付の投資家向けレポートで、100%関税は制作本数の減少、コスト上昇、業界全体の収益減少につながると分析しました。
日本やアジアにも波及する可能性は
ハリウッド映画は、日本を含むアジア市場でも依然として大きな存在感を持っています。また、アジアのスタジオや制作会社がハリウッドと組む共同製作も増えています。
仮にトランプ大統領の100%関税案が具体化・実施されれば、以下のような形で日本やアジアにも影響が及ぶ可能性があります。
- 米国向けに制作される共同製作作品のコスト増加
- ハリウッドとの共同企画自体が減少し、製作本数が縮小
- 報復措置として、各国が自国市場での上映・配信条件を見直す動き
現時点では具体的な政策設計が示されていないため、どの程度の影響が出るかは不透明ですが、映画産業のグローバルなエコシステム全体が揺さぶられる可能性があることは、多くの関係者が指摘しています。
これからの注目ポイント:何を見ておくべきか
今回の「100%関税」表明をめぐっては、今後、次の点が焦点になりそうです。
- 法的根拠:どの法律や権限を使って関税を発動するのか
- 適用範囲:全ての海外製映画が対象なのか、一部の国・地域に限るのか
- 実施時期:いつから、どのような移行期間を設けるのか
- 国内インセンティブ:税制優遇など「ごほうび型」の政策との組み合わせはあるのか
- 各国の対応:他国が報復関税や規制強化に動くかどうか
デジタル配信の拡大や制作の国際分業が進む中で、映画産業はすでに国境を越えたビジネスとして成り立っています。今回のトランプ大統領の提案は、その前提をどこまで変えるのか、それとも政治的メッセージにとどまるのか。今後の動きが注目されます。
Reference(s):
Trump says will impose 100% tariff on movies made outside U.S.
cgtn.com








