北京発 City of Floating Sounds アプリで歩く新感覚クラシック体験
北京の中国国家大劇院(National Centre for the Performing Arts、NCPA)周辺で最近行われた都市型プロジェクト City of Floating Sounds は、スマホアプリを使って街を歩きながら音楽を体験する、新しいクラシック音楽公演として注目を集めています。テクノロジーと都市探検、参加型パフォーマンスを組み合わせたこの試みは、コンサートのあり方そのものを問い直しています。
スマホアプリが案内する「都市ツアー型コンサート」
City of Floating Sounds では、観客はまず専用のモバイルアプリを立ち上げ、中国国家大劇院周辺の街へと歩き出します。アプリはインタラクティブなガイドとして機能し、参加者をさまざまな地点へと誘導します。
ポイントとなる場所に近づくと、作曲家による音楽の断片がアプリを通じて立ち上がります。観客は街のざわめきや環境音と重なり合う「音のかけら」を拾い集めながら、自分だけの City of Floating Sounds を組み立てていきます。
同じエリアを歩いていても、どのルートをたどり、どこに立ち止まるかによって聴こえる音楽は変化します。つまり、作品は一つの固定された演奏ではなく、都市空間と観客の動きが生み出す、動的で変化し続ける体験として提示されているのです。
作曲家フアン・ルオの「浮かぶ音の都市」
この作品を手がけたのは、フアン・ルオ(Huang Ruo)です。米紙ニューヨーク・タイムズがその「個性的な作風」を評価してきた作曲家であり、現代音楽シーンで独自の存在感を放っています。
City of Floating Sounds では、フアン・ルオは舞台と客席という従来の境界を離れ、都市そのものをコンサートホールへと変換しようとしています。観客は単なる聴き手ではなく、自ら歩き、選び、体験を組み上げる「共演者」として位置づけられています。
テクノロジー×都市×参加型パフォーマンス
このプロジェクトの特徴は、次の三つに整理できます。
- テクノロジー:専用モバイルアプリがガイド役となり、体験の進行を支える
- 都市探検:中国国家大劇院周辺の街を歩きながら、日常の風景が舞台へと変わる
- 参加型:観客の動きや選択によって、音楽の聴こえ方や時間の流れが変化する
こうした構造によって、作品は「完成された一つの楽曲」ではなく、「都市と観客との関係から生まれ続けるプロセス」として提示されています。
BBCフィルハーモニックが2024年に初演
City of Floating Sounds は、英国のクラシック音楽シーンを支える存在である BBCフィルハーモニック管弦楽団によって、2024年に初演されました。英国のクラシックを支えるオーケストラがこの作品を取り上げたことは、フアン・ルオの試みが決して「実験的な小企画」にとどまらず、クラシック音楽のメインストリームとも接続していることを示しています。
その後、北京の都市空間に場を移したプロジェクト版では、ホールでの演奏で培われた音楽的な骨格が、街の音や観客の動きと混ざり合い、より立体的で没入感のある体験へと拡張されています。
クラシック音楽の「聴き方」をどう変えるのか
ホールに集まり、ステージ上のオーケストラを静かに聴く――従来のクラシック音楽は、こうした形式に強く結びついてきました。City of Floating Sounds は、その前提をさりげなく揺さぶります。
観客は座席から解放され、街を歩きながら音楽を聴きます。行き交う人々、車の音、風や光といった環境が、そのまま作品の一部になります。同じ作品であっても、朝に歩くのか、夕暮れに歩くのか、誰と歩くのかによって体験は変わり、二度と同じ「公演」は生まれません。
このような形式は、クラシック音楽を「固定された作品」から、「その場・その時間にしか立ち上がらない体験」へとシフトさせるものと言えます。デジタルネイティブの世代にとっても、自分のペースで関わることのできる開かれたクラシックの入り口になり得るでしょう。
日本の都市で起きるかもしれない未来
スマートフォンを片手に街を歩くことが当たり前になった今、City of Floating Sounds のようなプロジェクトは、他の国や地域の都市にも展開しうるフォーマットです。もし東京や大阪、福岡などで同様の試みが行われれば、通い慣れた通勤路や繁華街が、全く違う「音の風景」として立ち上がるかもしれません。
国際ニュースとして眺めると、北京での City of Floating Sounds は、クラシック音楽がテクノロジーと都市空間を通じて共有されていく流れの一例です。音楽、都市、テクノロジーの交わるこの動きは、これからの文化体験のヒントとして、日本の読者にとっても注目しておきたいトピックだと言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








