5年も絶食して生きられる?深海巨大等脚類が持つ「省エネ遺伝子」の正体を解明
SF映画に登場する生物のような話ですが、一度の食事で5年以上も生き延びることができる深海の巨大生物が存在します。この驚異的な生存能力の秘密を、中国の研究チームが突き止めました。
今回の研究で注目されたのは、「超巨大等脚類(スーパージャイアント・イソポッド)」です。庭先で見かけるダンゴムシの遠い親戚にあたり、サイズは厚みのあるタブレット端末ほどになります。餌が極端に少ない深海という過酷な環境で生き抜くため、彼らは独自の生存戦略を進化させてきました。
「収入を増やし、支出を減らす」生存戦略
研究チームによると、この巨大等脚類は、いわば「家計管理」のような巧妙な戦略で飢餓を乗り切っているといいます。
- 効率的な貯蔵(収入の最大化): 体の約3分の2を占める巨大な胃を持っており、餌が見つかったときには大量に食べ、それを数ヶ月から数年にわたって保存できる「冷凍庫」のような役割を果たしています。
- 超低代謝モード(支出の最小化): 基礎代謝率を極限まで低く抑え、常に「省エネモード」で生活しています。
細菌から「盗んだ」特殊な遺伝子の存在
しかし、最大の発見は、この代謝抑制を司る鍵となる遺伝子「ND1」の正体でした。驚くべきことに、この遺伝子はもともと等脚類が持っていたものではなく、共生細菌から「水平伝播」というプロセスを通じて取り込まれたものだったことが分かりました。
研究に携わった中国科学院海洋研究所(IOCAS)の袁建波氏は、これを「生物学的なコピー&ペーストのようなもの」と表現しています。外部の生物から有用なDNAを直接取り込み、それを自らのエネルギー制御スイッチとして再利用していたのです。
温度に反応する「代謝サーモスタット」
このND1遺伝子は、環境温度に応じて働きを変える「サーモスタット」のような役割を果たします。研究チームがゼブラフィッシュやヒトの細胞を用いて検証したところ、以下のような結果が得られました。
- 通常温度: エネルギー消費が速まり、飢餓への耐性が低下する。
- 低温環境(深海を模した状態): 代謝が抑制され、ミトコンドリアの活動が低下。結果として、ゼブラフィッシュの飢餓耐性が37%も向上した。
これにより、体の大きな生物が少ない食料でどうやって生き延びるかという「エネルギーのパラドックス」が解消されました。
未来の医療や産業への可能性
この研究は、中国本土の山東省青島市にある中国科学院海洋研究所(IOCAS)を中心に、香港の香港中文大学や中国本土の陝西省西安市にある西北工業大学による共同研究として、国際学術誌『Cell』に掲載されました。
深海生物が持つ極限のエネルギー管理メカニズムの解明は、単なる生物学的好奇心にとどまりません。将来的には、以下のような分野への応用が期待されています。
- 長寿研究: 代謝制御による老化の抑制。
- 肥満治療: 効率的なエネルギー管理アプローチの開発。
- 養殖業: より効率的な飼料利用が可能な品種改良。
深海の暗闇の中で静かに生き抜く生物の知恵が、私たちの健康や食糧問題に新たな視点をもたらすかもしれません。
Reference(s):
Scientists reveal how deep-sea giant can survive 5 years without food
cgtn.com