PBSがトランプ政権を提訴 公共放送への資金削減命令は違憲と主張
米国の公共放送局であるPBS(Public Broadcasting Service)が、ドナルド・トランプ米大統領による連邦政府資金の削減命令は憲法違反だとして、ワシントンの連邦裁判所に提訴しました。米国の公共放送PBSやラジオ局NPRへの資金カットをめぐり、言論の自由と政治からの独立性が大きな争点になっています。
何が起きているのか
訴状によると、今年5月1日付の大統領令は、税金で支えられる非営利組織である公共放送公社(Corporation for Public Broadcasting、CPB)に対し、PBSとNPR(National Public Radio)への連邦資金の支出を打ち切るよう求める内容です。PBSは、この大統領令が公共テレビを根底から覆す違憲の攻撃だと批判しています。
PBSとミネソタ州の公共テレビ局は、ワシントンD.C.の連邦裁判所に共同で訴えを起こし、大統領令の差し止めを求めました。訴えでは、トランプ大統領の命令によって、ホワイトハウスが番組内容を事実上コントロールする立場に立つことになり、米国憲法修正第1条(言論・報道の自由)に違反すると主張しています。
PBSが訴える「見解差別」とは
PBSは訴状の中で、大統領令が番組内容を理由に資金を止めようとしている点を問題視しています。5月1日の大統領令は、PBSの番組内容に不満を持ち、その発言や論調を変えたいという意図から、資金の流れを断とうとしているものであり、そのことを隠そうともしていないと指摘しました。
PBSは、特定の意見や報道内容を理由に政府が資金を差し止めるのは、特定の見解だけを罰し、別の見解を優遇する「見解差別」にあたるとし、これは修正第1条が禁じる行為だと訴えています。さらに、大統領を番組内容の最終的な裁定者のような立場に置くものであり、公共放送の独立性を深刻に損なうと主張しています。
公共放送の資金構造と影響の大きさ
トランプ大統領の大統領令は、PBSやNPR、CPBの三者がいずれも非営利組織であるにもかかわらず、CPBに対し資金カットを命じる形をとっています。
PBSによると、CPBからの資金は、PBSの年間予算3億7340万ドルのうち16%を占めています。残りの大部分は、全米各地のローカル局がPBSに支払う会費などによって賄われており、こうした会費収入は予算全体の61%に達します。
しかしPBSは、今回の資金削減命令はローカル局にも及ぶと指摘しています。多くのローカル局は連邦資金を受け取り、その一部をPBSへの会費として支払っていますが、大統領令による資金禁止が適用されれば、こうした連邦資金も断たれる可能性があります。そうなれば、地方の小規模局ほど運営が難しくなり、教育番組や地域の情報発信が縮小する懸念もあります。
ホワイトハウスは「政治的偏り」を批判
これに対しホワイトハウスは、大統領令は正当な権限行使だと反論しています。大統領府の報道担当者であるハリソン・フィールズ氏は声明で、CPBが納税者の負担によって、特定の政党を支持するメディアを作り出していると主張しました。
フィールズ氏は、そうした状況を踏まえ、大統領はNPRやPBSへの資金支出を制限する合法的な権限を行使していると述べています。ホワイトハウス側は、問題は資金削減そのものではなく、公平性を欠いた報道が税金で支えられていることだという立場です。
NPRも別途提訴
公共ラジオのNPRも、5月27日に独自の訴訟を起こし、大統領令の差し止めを求めています。PBSとNPRという米国を代表する二つの公共メディアが、同じ大統領令に対して法廷闘争に踏み切ったことで、この問題は単なる予算の争いにとどまらず、公共メディアの存在意義や民主主義社会における役割を問う訴訟として注目されています。
公共放送と言論の自由めぐる、三つの論点
今回の訴訟は、米国内の問題にとどまらず、公共放送を持つ国や地域に共通する論点を含んでいます。日本の読者にとっても、次のような点は自分ごととして考えやすいテーマではないでしょうか。
- 税金による支援と編集の独立性は、どのような仕組みなら両立させられるのか。
- 政権に批判的な報道を行う公共メディアに対し、政府が資金を通じて圧力をかけることは許されるのか。
- SNSや動画配信が主流になる中で、公共放送はどのような役割を担うべきなのか。
米国の公共放送をめぐる今回の訴訟は、単に一国のメディアと政権の対立というだけでなく、民主主義とメディアの関係を改めて問い直すケースとして、今後も注視する価値がありそうです。
Reference(s):
PBS sues Trump administration over executive order to cut funding
cgtn.com








