イランとイスラエルの対立激化 軍事報復と外交の二正面作戦
イランとイスラエルの軍事衝突が続くなか、テヘランはミサイルによる報復と同時に、核問題をめぐる外交も手放さないという二正面作戦を取っています。2025年12月現在、この姿勢が中東情勢と国際社会の注目を集めています。
核施設空爆から始まった2025年の衝突
発端は2025年6月13日、イスラエルがイランの核施設や軍事インフラに対して行った空爆です。これを受けてイランは、複数回にわたるミサイル攻撃で報復に出ました。
イスラエルの攻撃開始後8日間で、両国は激しく応酬し、少なくともイラン側で430人、イスラエル側で24人が死亡したとされています。イスラエル軍はイランの攻撃に対し「9割超を迎撃した」と主張しましたが、一部の弾道ミサイルは防空網を突破し、テルアビブ証券取引所の入るビルが被弾するなど、象徴的なダメージも生じました。
イランはこうした軍事行動を続ける一方で、「イスラエルの攻撃が続く限り、米国との核交渉には戻らない」との立場を明確にしており、核問題を交渉材料としながらも、軍事的抑止を優先する姿勢がうかがえます。
交渉の扉は閉じず 「条件付きの柔軟性」
とはいえ、イランは外交の扉を完全に閉ざしているわけではありません。ワシントンとテヘランはこれまで、制裁解除と核開発制限をめぐって複数回の交渉を重ねてきました。今回のイスラエルの攻勢でそれらは中断したものの、テヘランは水面下での対話チャンネルを維持しています。
セイエド・アッバス・アラグチ外相は、スイス・ジュネーブで欧州側の担当者らと会合を持ち、イスラエルの爆撃が止まるのであれば、核問題で一定の柔軟性を示す用意があることを示唆したと伝えられています。報道によれば、アラグチ外相は開戦後、米国の中東担当特使スティーブ・ウィトコフ氏とも電話で協議しており、対立の裏側で静かな外交戦が続いているとみられます。
つまりイランは、「攻撃を受けている間は譲歩しない」という強硬なメッセージを発しつつも、停戦や空爆停止が見えてくれば、核協議に戻る余地を残していると言えます。
最高指導者ハメネイ師の計算 イデオロギーと現実主義
こうした戦略は、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の意思を反映したものと受け止められています。イラン指導部は反イスラエル・反米的な強いレトリックで知られますが、ハメネイ師は2015年の核合意を承認した過去もあり、イデオロギーと現実的な国益を天秤にかけながら判断する「現実主義者」としての側面も指摘されてきました。
現在のガザでの戦闘をめぐっても、イランはパレスチナへの連帯を示しつつ、自らが全面戦争に巻き込まれる事態は避けようとしてきました。イスラエルに対する抑止を示しつつ、地域全体が制御不能な戦争に陥る事態は避けるというバランスを取り続けていると見ることができます。
トランプ政権の「読めなさ」が生む不安定さ
イランにとって、もう一つの不確定要因が米国の動きです。ドナルド・トランプ大統領の下での米国の対イラン政策は、強硬な制裁と対話の呼びかけが入り混じる、予測しにくいものになっています。
トランプ大統領は二週間にわたる外交的な「様子見期間」を設けたかと思えば、「無条件降伏」を求めるような強硬な発言も行い、イラン側にとっては米国が全面的にイスラエル側に立って軍事作戦に踏み込む可能性を常に計算に入れざるを得ない状況です。
米国がイスラエルと共にイランの核能力を軍事的に無力化する作戦に直接関与するべきかどうかをめぐっては、専門家の間でも見解が分かれています。西側の懸念を一気に和らげる「戦略的勝利」につながると見る声がある一方、米軍基地や同盟国がイランの報復攻撃にさらされるリスク、そして「これ以上の海外での戦争」を好まない米国内世論への影響を懸念する見方も根強くあります。
ホルムズ海峡封鎖という最後のカード
軍事と外交の間で綱渡りを続けるイランには、もう一つ重い選択肢があります。それがペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡の封鎖です。イランの議員アリ・ヤズディハ氏は、「国家の利益が脅かされる場合には、ホルムズ海峡封鎖も選択肢として排除されない」と述べ、米国が本格的に戦闘に加わる場合の圧力手段になり得るとの考えを示しました。
ホルムズ海峡はイランとオマーンに挟まれた海峡で、世界の原油輸送量の約5分の1にあたる日量約1800万バレルが通過するとされています。最も狭い部分は約33キロメートルしかなく、世界のエネルギー供給にとって極めて重要でありながら、同時に脆弱なチョークポイントでもあります。
中国社会科学院西アジア・アフリカ研究所の魏亮・准研究員は、ホルムズ海峡封鎖について「相手への抑止や圧力にはなり得るが、地域諸国と世界経済をも傷つけかねない両刃の剣だ」と指摘しています。2023年のサウジアラビアとイランの関係改善以降、イランと湾岸諸国との関係は目に見えて良好になっており、現時点ではホルムズ海峡封鎖はイランにとって「最後の手段」であって、積極的に使いたいカードではないとみられます。
街頭に広がるイラン支持とイスラエルの誤算
国内外の世論も、イラン指導部の計算に影響を与えています。イラン国内だけでなく、ベイルートやバグダッドでも大規模なデモが行われ、イスラエルの攻撃に抗議する群衆がイラン国旗を掲げ、反イスラエル・反米のスローガンを唱えました。
このような動きは、イラン指導部にとっては「長期戦を支える世論の後押し」となり得ます。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がイラン国民に対し、指導部の打倒を呼びかけたこともありましたが、結果的には「外からの圧力」に反発する形で、イラン国内の結束を強めたとの見方もあります。
日本と世界への意味合い エネルギー安全保障の視点
このイラン・イスラエル間の対立は、中東地域の安全保障だけでなく、世界経済、特にエネルギー市場にも直結する問題です。ホルムズ海峡を通る原油に大きく依存している点で、日本も無関係ではありません。
仮にホルムズ海峡が封鎖されれば、原油価格の急騰や供給の混乱を通じて、日本経済にも影響が及ぶ可能性があります。たとえ完全封鎖に至らなくても、軍事的緊張の高まりだけで市場が敏感に反応する局面は、今後も繰り返されると考えられます。
同時に、イランが「核問題をめぐる外交の余地」を残していることは、国際社会にとって重要な意味を持ちます。軍事的エスカレーションと外交的関与のどちらに重心が移るのかは、日本を含むエネルギー輸入国の中長期的なリスク評価にも直結するからです。
これからを見る3つのポイント
2025年12月の時点で、イランとイスラエルをめぐる情勢を読み解く鍵となる視点を、あえて三つに整理してみます。
1. イランの「条件付き柔軟性」はどこまで続くか
空爆が続く限り核交渉には戻らないとしつつも、攻撃停止が見えてくれば柔軟な姿勢を示す余地を残している点は、イラン外交の大きな特徴です。この「条件付き柔軟性」がどこまで維持されるかが、今後の緊張緩和のカギになります。
2. 米国の関与の度合い
トランプ政権がどこまで軍事的に関与するのかは、地域情勢を一変させ得る要素です。イスラエルとの共同作戦に踏み込むのか、それとも制裁と圧力にとどめるのか。米国内の世論や支持基盤の動向も含め、その行方は引き続き注視が必要です。
3. ホルムズ海峡カードが切られるか
ホルムズ海峡封鎖は、イランにとって強力である一方、自国を含む地域経済にも痛みをもたらす「最後のカード」です。現段階でイランがあえてこれを行使する可能性は高くないと見られるものの、選択肢としてテーブルに残されている限り、市場と各国政府は備えを求められます。
ミサイルによる報復と外交による出口探しを同時に進めるイランの戦略は、単純な「強硬か融和か」という二択では語りきれません。軍事・外交・エネルギー安全保障が絡み合うこの問題をどう見るかは、日本の読者一人ひとりにとっても、自分の視点をアップデートするきっかけになりそうです。
Reference(s):
Iran holds firm on diplomacy even as conflict with Israel escalates
cgtn.com








