中国の「人間中心の発展」とは?第15次五カ年計画の焦点を読む
リード:2025年12月上旬に閉幕した中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議では、今後5年間の経済・社会発展の青写真が示され、「人間中心の発展」というキーワードが改めて強調されました。本記事では、その内容とねらいを、中国社会科学院大学スクール・オブ・ガバナンスの王(Wang)教授のインタビュー発言を手がかりに整理します。
第15次五カ年計画と「人間中心の発展」
今回の全体会議では、中国の第15次五カ年計画(15th Five-Year Plan)期間に向けて、「人々の生活向上」と「全ての人が豊かになること(共通の繁栄)」を一層重視する方針が打ち出されました。雇用、医療、住宅、食の安全といった国民生活に直結する分野で、「人間中心の発展」理念をどう具体化するかが、今後5年間の大きなテーマとなります。
習近平国家主席は2015年に「人間中心の発展」理念を提示して以来、経済発展の目的はあくまで人々の幸福であることを繰り返し強調してきました。今回の計画は、その考え方を制度や政策としてさらに深めていく位置づけです。
6つの原則が示す発展の方向性
王教授によると、第15次五カ年計画期間の経済・社会発展に向けて、中国共産党中央は次の6つの原則を打ち出しています。
- 党の全面的指導を堅持する
- 人民を第一とする(putting people first)
- 高品質な発展を追求する
- 改革を全面的に深化させる
- 効率的な市場と有能な政府の相互作用を促す
- 発展と安全の双方を重視する
「人々の福祉を保障・改善し、全ての人の繁栄を促進する」という提言は、これら6原則を具体化するものであり、特に「人民を第一とする」という姿勢が色濃く反映されています。
2015年に提示された「人民を第一とする」姿勢
王教授は、「人民を第一とする」という考え方は、マルクス主義の「人民観」を中国的に表現したものであり、「新時代の中国の特色ある社会主義についての習近平思想」の重要な構成要素だと説明します。
この原則は、発展の目的、進め方、そして成果の配分に関する宣言だとされています。
- 発展は常に人々のために行う
- 発展は人々の力に依拠して進める
- 発展の成果は人々が共に享受する
そのうえで、中国は経済発展を中心課題としつつ、「高品質な発展」をメインテーマに据え、「人民を第一とする」原則をより高い水準で実行する科学的で効果的な道筋を探る必要があると指摘します。それにより、人々の全面的な発展を一歩ずつ進め、社会主義現代化の基礎を固める狙いがあります。
社会の流動性と教育:暮らしの質を左右する鍵
計画の中で、「人々の最も切実な問題を解決する」という表現が使われている点にも注目が集まります。王教授は、この言葉には、人々の新しい関心や不安、期待をよりタイムリーかつ正確に把握する必要があるという意味が込められていると見ています。
なかでも社会の「流動性」は、社会の活力を示す重要な指標だとされています。人と機会が柔軟に動ける社会は、生活の質を高めるだけでなく、高品質な経済成長を支える原動力にもなります。このため、提言では「社会流動のルートを円滑に保つ」ことが強調されました。
教育についても、第15次五カ年計画では「教育強国」「科学技術強国」「人材強国」といった方向性に加え、「人民の期待に応える教育」を発展させることが掲げられています。単に教育水準を高めるだけでなく、学ぶ側が求める内容にいかに応えるかという「人間中心」の視点が前面に出ています。
生活の質をどう測るか:3つの視点
第15次五カ年計画期間における大きな目標の一つが、「生活の質の一層の向上」です。王教授は、その評価軸として次の3つのポイントを挙げています。
1. 物質・文化・制度・精神の「全体」を見る
第一に、この計画は人々の全面的な発展というゴールに導かれた包括的な枠組みだとされます。衣食住といった物質面だけでなく、文化生活、制度的な保障、精神面を含め、多面的なニーズを視野に入れています。
2. 誰も取り残さない公共サービス
第二に、公共サービスについては次のような考え方が示されています。
- 包摂的であること(誰も排除しない)
- 基本的ニーズを満たすこと
- 最も困っている人を支える「クッション」となること
具体的な対象としては、保育、教育、雇用、医療、介護、住宅、そして生活困窮者への支援などが挙げられています。さらに、サービスのアクセスのしやすさ、住みやすさ、安全性、公平性、多様性を高めることも重視されています。
3. 都市と農村、地域差に目を向ける
第三に、都市と農村、地域ごとの違いにきめ細かく対応する方針です。計画では、動態的なモニタリングを通じて、基礎的な公共サービスへの公平なアクセスを着実に進め、都市と農村の一体的な発展を後押しすることがうたわれています。
改革の重点:教育、雇用、所得分配、高齢者ケア
王教授は、「改革の全面的深化」が第15次五カ年計画の6原則の一つに位置づけられている点も指摘します。教育の公平、雇用促進、所得分配、高齢者ケアなどの分野では、新たな改革の機会が広がると見ています。
その際に重要になるのが、改革の体系性と的確さを高めることです。王教授は、研究に基づき次のような方向性を示しています。
- 教育の公平性:教育資源の偏りを是正する取り組みと、デジタル技術の革新を結びつけて進める。
- 雇用の促進:地域間の協調的な発展を図りつつ、西部地域の大規模な開発のために人材を呼び込む視点から取り組む。
- 所得分配と高齢者ケア:人々の暮らしの実情に合った形で制度を整え、生活の安心感を高める方向を探る。
人々のニーズをどう捉えるか:草の根とデジタル
第15次五カ年計画期間には、公共サービスと人々の暮らしのニーズとの「ずれ」をいかに小さくするかも重視されます。その前提となるのが、ニーズを正確に把握することです。
王教授は、そのためのアプローチとして次の2点を挙げています。
- 草の根に入り込む:地域社会に足を運び、住民との対話を定期的かつ制度的に行う。これは、人々の意見を広く聞き政策に反映させる「群衆路線」と呼ばれる姿勢を具体化するものです。
- インターネットやAIなど新技術を活用する:オンラインでの意見収集やデータ分析を通じて、課題を迅速に把握し対応する。
成功例として、北京で運用されている「12345」ホットラインが紹介されています。これは、市民からの苦情や要望を受け付け、迅速に対応するための主要な窓口として機能している仕組みです。
「人間中心」の発展は何を問いかけるか
今回示された第15次五カ年計画の議論からは、中国が今後5年間、雇用や教育、医療、介護、住宅など暮らしに密接に関わる分野に重点を置き、「人間中心の発展」理念を具体的な制度やサービスの形に落とし込もうとしている姿が浮かび上がります。
同時に、「社会の流動性」や「公共サービスへの公平なアクセス」といった視点は、東アジアの他の国・地域にとっても共通の課題です。経済成長の数字だけでなく、「誰のための発展なのか」「その成果はどう分かち合われるのか」を問うこのアプローチは、日本社会にとっても考えるきっかけを提供していると言えるかもしれません。
Reference(s):
Q&A on people-centered development: Priorities, indicators, reforms
cgtn.com








