甘粛省でモウコノウマ移送 近親交配防ぎ野生復帰を後押し video poster
中国甘粛省の2つの自然保護区のあいだで、絶滅危惧種モウコノウマ(Przewalski's horse)が移送されました。遺伝的多様性を高めて近親交配を防ぎ、野生で生き抜く力を強くすることが目的です。
甘粛省の保護区間で40頭を移送 受け入れ側は166頭に
今回の国際ニュースの主役は、中国北西部・甘粛省にある2つの自然保護区です。極度乾燥地帯を守る「安西極乾旱荒漠国家級自然保護区」から、「敦煌西湖国家級自然保護区」へ、モウコノウマがバッチ方式で移送されました。
全体で40頭が移送され、そのうち最後の15頭が土曜日に敦煌側の保護区に到着しました。これにより、敦煌西湖国家級自然保護区におけるモウコノウマの個体数は、126頭から166頭へと増加しました。
目的は「近親交配の回避」 イギリス系とドイツ系を混ぜる理由
この移送の背景には、遺伝的な偏りを避ける狙いがあります。安西の保護区にいるモウコノウマはイギリス由来、敦煌の保護区の個体はドイツ由来とされており、それぞれ別ルートで導入された血統です。
自然状態のまま閉じた集団で繁殖を続けると、限られた親同士から子どもが生まれ続けることで、近親交配のリスクが高まります。その結果、
- 病気への抵抗力が下がる
- 繁殖力が弱まる
- 集団としての生存力が落ちる
といった問題が起きやすくなります。
安西と敦煌の個体を混ぜることで、遺伝子の組み合わせを増やし、野生で生き抜くうえで有利な多様性を確保しようとしているのです。
ストレスを抑える移送の工夫 事前順化と寄生虫対策
大型の野生動物を長距離移送することは、動物にとって大きなストレスになります。そのため、安西の保護区では、モウコノウマを事前に「半ば飼育環境」に慣らす準備が行われました。
- 移送前に囲い(フェンス)を設置し、捕獲・収容環境に慣れさせる
- 輸送車両へのストレス反応を軽減するための順化期間を設ける
- 段階的に寄生虫の駆除を行い、健康状態を整える
こうしたプロセスを踏むことで、移送中のリスクを減らし、到着後もスムーズに新しい環境へ適応できるように配慮されています。
「野生で生き抜く力」を高める段階的な野生復帰
敦煌西湖国家級自然保護区の管理・保全センター所長である孫衛剛(スン・ウェイガン)氏は、移送の狙いについて次のように説明しています。
「個体数を増やすだけでなく、遺伝子の組み合わせを変え、野外で生きるための抵抗力を高めることで、種としての生存能力を強化したい」
今回移送されたモウコノウマのうち、最後の15頭はすぐに完全な野生には戻されません。まず敦煌の保護区で、半ば飼育された環境のもと、数カ月かけて現地の気候や植生に慣れる期間を過ごします。その後、適切なタイミングで野外へ放たれる予定です。
モウコノウマとは? 一度は野生絶滅した「原始の馬」
モウコノウマは、中国とモンゴル原産の野生馬で、中国では国家一級の重点保護動物に指定されています。家畜化されたウマとは異なる「原始的な形質」を多く保っているとされることから、「原初のウマ」に近い存在とも言われます。
しかし20世紀半ば、過度の捕獲や環境の変化などが重なり、モウコノウマは一度、野生の世界から姿を消しました。そこで1985年、中国は他国からモウコノウマを導入し、新疆ウイグル自治区や甘粛省などに繁殖拠点を設け、野生復帰を目指す長期プロジェクトをスタートさせました。
9月の野外放牧と定着 湿地での新しい群れ
モウコノウマの野生復帰に向けた動きは、移送だけにとどまりません。9月には、敦煌の自然保護区が、保護区から約30キロ離れた2つの湿地にモウコノウマ40頭を放ちました。
現在までに、30頭から成る4つの群れがこれらの湿地に定着し、繁殖も確認されています。保護区から一歩外の自然環境で、群れとして暮らし、子を残し始めていることは、野生復帰のプロセスが着実に進んでいることを示しています。
なぜこのニュースが重要なのか
今回の甘粛省での移送は、単なる「動物の引っ越し」ではありません。そこには、次のような問いかけが含まれています。
- 人間の手をどこまで入れるべきか――「放っておく自然」と「支える自然」のバランス
- 絶滅危惧種を守るために、遺伝子レベルでの管理や移送はどこまで許容されるのか
- 砂漠や乾燥地帯という厳しい環境で、どのように生態系を回復させていくのか
モウコノウマのケースは、生物多様性保全や野生復帰の現場で、世界各地が直面している課題を象徴しています。国境を超えて注目されるべき「実験」が、いま中国北西部で進行しているとも言えるでしょう。
私たちにできることを考えるきっかけに
ニュースとして読むと一見遠い話に思えるかもしれませんが、モウコノウマの移送は、地球規模の生物多様性や気候変動の議論ともつながっています。絶滅危惧種の保全には、長い時間軸と地道な取り組みが欠かせません。
日々のニュースの中で、こうした「静かな変化」にも目を向けることが、私たち自身のものの見方を更新するヒントになるはずです。
Reference(s):
cgtn.com








