北京の音を記録するサウンドアーティストと鳩笛職人の物語 video poster
中国の首都・北京で、街の「音」を記録し続けているサウンドアーティストがいます。コリン・チャンニーさんです。彼は長年にわたって北京のユニークなサウンドスケープを録音し、耳で聞く都市の歴史を編んできました。なかでも、消えつつある鳩笛の音を守ろうと、熟練の職人・張宝同さんと協力しながら、その古い習慣の物語を掘り起こしています。
北京という都市を「音」で記録する
サウンドスケープとは、ある場所に満ちているさまざまな音のまとまりを指します。自動車の走行音、人々の話し声、屋台の呼び込み、朝夕の鳥の声。その組み合わせは都市ごとに異なり、時代とともに変化していきます。チャンニーさんは、こうした北京ならではの音の風景を録りためることで、言葉や写真とは違うかたちの歴史資料を残そうとしています。
音は、その場にいた人でなければ体験できないものですが、録音することで後から聞き返すことができます。たとえば、現在の北京の雑踏を記録しておけば、数十年後に聞いたとき、「この頃はこんな音がしていたのか」と都市の変化を実感できるかもしれません。チャンニーさんの活動は、そんな「未来のリスナー」に向けたタイムカプセルのような試みといえます。
消えつつある鳩笛の響き
数ある北京の音のなかでも、チャンニーさんが特に気にかけているのが、鳩笛の音です。鳩が空を舞うときに聞こえる独特の響きは、北京の人々にとって懐かしい音として知られてきました。しかし、この鳩笛の音は、いま静かに姿を消しつつあります。
鳩笛は、古くから続く習慣に支えられてきた音だといわれています。それだけに、一度途絶えてしまえば、技術だけでなく、その音にまつわる記憶や物語も失われかねません。チャンニーさんは、まさにその点を危惧し、鳩笛の音を丁寧に記録しながら、その背景にある文化を知ろうとしています。
職人・張宝同さんとともに
鳩笛の音を未来に残すには、録音するだけでなく、その仕組みやつくり手の経験を知ることも欠かせません。そこでチャンニーさんは、鳩笛づくりの専門家である張宝同さんとチームを組みました。張さんは、鳩笛の音を熟知する職人として、その技と知恵をチャンニーさんに伝えています。
この協働によって、音そのものの記録に加え、鳩笛がどのように作られ、どのように使われてきたのかといったストーリーも一緒に記録されていきます。音と物語の両方を残すことで、鳩笛という文化をより立体的に理解し、次の世代へと引き継ぐことができるからです。
都市の「音の遺産」をどう守るか
写真や動画が手軽に撮れるようになった現在でも、日常の「音」を意識的に残している人は多くありません。けれども、都市の魅力や個性は、景色だけでなく、そこで鳴り響く音にも宿っています。北京でのチャンニーさんと張さんの取り組みは、急速に変化するアジアの大都市において、「音の遺産」をどう守るかという問いを投げかけています。
同じ問いは、日本の私たちにも向けられています。通い慣れた駅のアナウンス、近所の商店街の呼び込み、季節ごとの祭りの太鼓や鐘の音。身の回りの音を意識して耳を澄まし、記録してみることは、身近な場所の歴史を自分たちの手で残す一つの方法かもしれません。北京の鳩笛の物語は、「音で世界を見る」という新しい視点を静かに教えてくれます。
Reference(s):
cgtn.com








