中国が仲裁法改正案を再審議 不正防止と国際仲裁ルールへの接続強化
中国の仲裁法の改正案が、2025年12月7日(日)に開かれた全国人民代表大会(全人代)常務委員会の会期で2回目の審議に付されました。不正な仲裁を抑止しつつ、国際仲裁の信頼性と競争力を高めることをめざす動きで、国際ビジネスや投資に関心のある読者にとっても注目すべきニュースです。
改正仲裁法案の狙い:不正防止と国際競争力の強化
今回の仲裁法改正案は、主に次の二つの方向性を持っています。
- 虚偽の証拠や悪意ある共謀による「不正な仲裁」を抑止し、仲裁手続きの公正さを高めること
- 外国関連(クロスボーダー)の仲裁制度を整備し、国際的な共通ルールとの接続を強めること
改正案は、2024年11月に全人代常務委員会で初めて審議されており、今回はその第2回審議です。現在も会期中で、条文の具体的な表現や運用方法について議論が続いています。
虚偽証拠や共謀による「不正な仲裁」をどう防ぐのか
改正案の中核の一つが、虚偽の証拠提出や当事者同士の悪意ある共謀に対する規律強化です。仲裁手続きは、本来は当事者同士の紛争をスピーディーかつ柔軟に解決するための仕組みですが、その仕組みを悪用しようとする動きも問題視されてきました。
仲裁廷に「請求を退ける義務」を明記
改正案では、仲裁廷(仲裁人の合議体)が、次のような場合には仲裁の請求を受理せず、または退けることを求めています。
- 当事者が証拠を捏造していると認められる場合
- 当事者同士が悪意を持って共謀し、仲裁を利用して第三者に損害を与えようとしている場合
- その結果として、国家の利益や公共の利益、または他者の正当な権利・利益が侵害されるおそれがある場合
こうした規定は、仲裁を通じて資産を不当に移転したり、第三者の権利を形式的な「合意」によって切り崩したりするような行為を抑止する狙いがあります。仲裁廷がより積極的に事実関係と証拠の信頼性をチェックすることが求められることになりそうです。
外国関連仲裁のルールを国際基準に近づける
今回の改正案は、中国本土における外国関連仲裁(外国企業や海外要素を含む紛争の仲裁)をめぐる制度をさらに整備し、国際的な共通ルールとの整合性を高めることも掲げています。
具体的には、次のような方向性が示されています。
- 外国関連仲裁制度の改善と、国際的に広く受け入れられている仲裁ルールとの積極的な接続
- 中国本土の仲裁機関と、海外の仲裁機関や国際機関との交流・協力の強化
- 国際仲裁ルールの策定作業への積極的な参加
これにより、中国本土の仲裁が、単に国内向けの紛争解決手段にとどまらず、国際ビジネスの現場で選択されやすい選択肢としての存在感を高めることが期待されています。
外国仲裁判断の承認・執行ルールを明確化
国際取引では、紛争を第三国や国際仲裁機関に付託するケースも少なくありません。その際の鍵となるのが、「外国の仲裁判断を中国本土でどのように承認・執行するか」という問題です。
改正案は、この点についても手続きを明確化しています。
どの裁判所に申し立てるのか
外国の仲裁判断(仲裁判断書)の承認・執行を中国本土で求める場合、申立てが可能な裁判所として、次のような中級人民法院が想定されています。
- 執行対象となる相手方(義務を負う側)が居住する地域の中級人民法院
- 相手方の財産が所在する地域の中級人民法院
- 紛争と「相応の関連性」を持つ場所にある中級人民法院
これにより、当事者がどの裁判所に申し立てるべきかが従来よりも分かりやすくなり、国際仲裁判断の実効性を高める狙いがあります。
国際条約と「互恵の原則」による処理
裁判所は、外国仲裁判断の承認・執行を求める案件を、関連する国際条約や「互恵の原則」に基づいて処理するとされています。
- 中国本土が締結・参加している関連条約がある場合は、その条約に従って判断
- 条約がない場合でも、相手国との間に互恵的な取り扱いの実績や原則があれば、それに基づいて対応
こうした枠組みによって、国境をまたぐ仲裁判断の「実際の執行可能性」を高め、国際ビジネスにおける法的予見可能性を向上させることが意図されています。
なぜいま、中国本土で仲裁法改正が進むのか
今回の仲裁法改正の背景には、国際取引の増加と、それに伴う紛争解決ニーズの高度化があります。特に、次のような点が意識されていると考えられます。
- 中国本土と海外企業との間での大型契約・投資案件の増加
- 紛争解決のスピードと専門性を重視する企業による「仲裁」利用の拡大
- 各国・各地域が、国際仲裁の拠点としての魅力を競い合う流れ
こうした環境の中で、仲裁の公平性と透明性を高めることは、国内外の当事者からの信頼を維持し、国際取引の受け皿としての役割を強めるうえで重要になっています。
日本企業・投資家にとっての意味
中国本土と取引や投資関係を持つ日本企業や投資家にとっても、今回の仲裁法改正の動きは無関係ではありません。契約書の紛争解決条項や、将来の紛争対応に影響を与える可能性があるためです。
契約段階で意識したいポイント
今後、仲裁条項を含む契約を結ぶ際には、例えば次のような点を確認しておくことが重要になりそうです。
- どの仲裁機関を利用するか(中国本土の機関か、海外の機関か)
- 仲裁地(仲裁判断が法的に位置づけられる場所)をどこに定めるか
- 証拠提出や手続きのルールがどのように変わるか
- 外国仲裁判断を中国本土で執行する必要が生じた場合の手続き
改正案が最終的にどのような形で成立し、いつ施行されるかによって実務への影響は変わりますが、「仲裁を選ぶ」ということが、これまで以上に戦略的な判断になっていく可能性があります。
これからの議論と今後の注目点
仲裁法改正案は、今回が2回目の審議であり、今後の審議を経て条文の内容がさらに練られていく見通しです。現時点で示されている方向性からは、次のようなトレンドが読み取れます。
- 仲裁制度の公正性を高めるための監督やルールの明確化
- 外国関連仲裁における国際ルールとの整合性の重視
- 外国仲裁判断の承認・執行をめぐる手続きの透明化
国際ビジネスの現場では、「どこで仲裁するか」「その判断がどこまで実際に執行できるか」が重要なテーマになっています。中国本土の仲裁法改正が、今後の契約実務や紛争戦略にどのような影響を与えるのか、引き続き注目されます。
Reference(s):
China's draft law revision reviewed to boost oversight in arbitration
cgtn.com








