嫦娥5号の月面ガラスビーズが示す「月の深部」の新たな姿
中国の月探査ミッション嫦娥5号が月面から持ち帰った極めて小さな緑色のガラスビーズから、月の深部にあたるマントルの姿に迫る新しい手がかりが見つかったと、中国とオーストラリアの研究者が報告しました。
嫦娥5号が持ち帰った「緑のガラスビーズ」とは
今回注目されているのは、嫦娥5号が採取した月の試料の中に含まれていた、ごく小さな緑色のガラス状の粒子です。オーストラリアのカーティン大学の発表によると、これらのガラスビーズは、一般的に月面で見つかるガラスとは性質が異なっていました。
通常、月のガラスは隕石などが表面付近に衝突した際の高温で岩石が溶けて急冷し、ガラス化したものと考えられています。しかし、今回のガラスビーズには、通常よりも多くのマグネシウムが含まれていることが分かりました。
高マグネシウムが語る「月の深部の記憶」
カーティン大学の説明によると、高いマグネシウム含有量は、これらのガラスビーズがより深い場所、つまり月のマントル由来の岩石と関係している可能性を示しています。研究チームは、月のマントルから上がってきた岩石に小惑星が衝突したとき、その高温・高圧の環境でガラスビーズが形成されたのではないかと見ています。
この研究に参加したカーティン大学地球惑星科学のアレクサンダー・ネムチン氏は、月のマントルに由来する岩石が隕石衝突を受けた結果として、このような高マグネシウムのガラスビーズが生まれた可能性を指摘しています。
月のマントルとは何か
月の内部構造は、地球と同じようにおおまかに「地殻」「マントル」「核」に分けられると考えられています。マントルは地殻の下に広がる層で、主にケイ酸塩鉱物(シリコンと酸素を含む鉱物)から成り立つとされます。
しかし、私たちはこれまで月のマントルそのものを直接採取したことはありません。アポロ計画を含め、各国の月探査で持ち帰られた試料の多くは、表面付近の岩石や土壌でした。そのため、マントルの化学組成や、月がどのように冷え固まっていったかについては、推測に頼る部分が少なくありませんでした。
「初のマントル試料」への手がかりとしての意義
ネムチン氏は、この小さなガラスビーズを通じて、これまで直接サンプルを手にできなかった月のマントルを「のぞき見る」ことができると指摘しています。言い換えれば、ガラスビーズがマントル由来の岩石の情報を閉じ込めたタイムカプセルのような役割を果たしている可能性があるということです。
今回の研究成果は、月の形成史や内部構造を理解するうえで、次のような意味を持つと考えられます。
- 月のマントルの化学組成を推定するための新しい手がかりになる
- 月内部のどの深さからどのように物質が移動してきたのかを考える材料になる
- 月全体の熱史や、初期のマグマの海と呼ばれる時代の姿を再検討するきっかけになる
中国とオーストラリアの共同研究が開く次の一歩
この研究は、中国とオーストラリアの研究者による共同研究としてまとめられ、科学誌 Science Advances に掲載されました。嫦娥5号が持ち帰った試料を精密に分析することで、月の内部構造についての理解が一歩進んだ形です。
今後、同様のガラスビーズやほかの鉱物を詳しく調べることで、月のマントルに由来する成分がどの程度含まれているのか、地域ごとの違いはあるのかといった点が明らかになっていく可能性があります。また、今回用いられた分析手法は、将来の月や他の天体からのサンプルリターンミッションにも応用できると考えられます。
スマートフォン越しに読むニュースの背後で、極小サイズのガラスビーズが、月の深部と私たちの理解をつなぐ重要なヒントになりつつあります。嫦娥5号の試料研究は、これからも国際的な協力のもとで続き、月の「見えない内部」を描き直していくことになりそうです。
Reference(s):
Chang'e-5 collected glass beads reveal secrets of moon's deep interior
cgtn.com








