中国・洞庭湖でミルクジカ「鹿の王」決定戦 40年の保全が生んだ野生の力 video poster
絶滅危惧種ミルクジカが生きる中国・湖南省の洞庭湖で、このほど繁殖期を迎えた雄同士の激しい争いが観察されました。中国発の環境ニュースとして、40年にわたる保全と再野生化の成果が一頭の「鹿の王」に凝縮されています。
この記事のポイント
- 湖南省・東洞庭湖自然保護区で、繁殖期の雄ミルクジカが激しく対決
- 勝者の雄には衛星測位装置付きの首輪が装着され、研究対象となっている
- ミルクジカは清代に中国国内で一度絶滅したが、1985年の再導入を経て回復
- 2024年末時点で、中国各地92か所の生息地で個体数は1万4千頭超に
- 洞庭湖の個体群は再野生化が最も成功した例とされ、現在は数百頭が生息
湖南・洞庭湖で繰り広げられた「鹿の王」決定戦
舞台となったのは、中国中部・湖南省にある東洞庭湖自然保護区です。ここでは、ミルクジカ(英名 Pere David's deer)がこのほど繁殖期に入り、群れの中でメスと交尾する権利をめぐって雄同士の争いが激しさを増しています。
今回「鹿の王」として君臨していたのは、角の形で見分けられる6〜7歳ほどの雄です。角には枝や草が絡みつき、自らの体をより大きく、威圧的に見せていました。繁殖期の雄にとって、こうした見た目の迫力も力の誇示の一部です。
そこに挑んだのが、1〜2歳ほど若い別の雄でした。2頭は勢いよく突進し、固く絡み合った角を激しくぶつけ合います。相手の体勢を崩そうと押し合いへし合いを続けるうちに、挑戦者の雄は深刻なけがを負い、勝負は「鹿の王」の勝利に終わりました。
首輪が語る、再野生化の成果
注目されたのは、この「鹿の王」の首元です。そこには衛星測位システム・北斗(BeiDou)の装置が組み込まれた首輪が取り付けられていました。研究者たちは、この首輪から送られてくる位置情報をもとに、ミルクジカの行動範囲や生息環境の変化を詳しく追跡しています。
専門家によると、この雄はもともと別の場所で飼育されていた個体群から導入されたとみられます。つまり一度は人の管理下にあったミルクジカが、野生の群れの中で激しい競争に勝ち抜き、「鹿の王」として繁殖のチャンスを獲得したことになります。これは、飼育下の個体を自然に戻す「再野生化」がうまく機能していることを示す具体的な証拠だといえます。
一度絶滅したミルクジカが戻るまで
ミルクジカは、中国原産のシカで、中国の国家一級保護動物に指定されている絶滅危惧種です。気候変動や乱獲が重なったことで、清代(1644〜1911年)には中国国内で一度絶滅したとされています。
転機となったのは1985年です。中国は海外からミルクジカを再導入し、本格的な保全プロジェクトをスタートさせました。自然保護区での繁殖と放獣を進め、飼育個体を野生に近い環境に戻していく取り組みが各地で続けられてきました。
その結果、2024年末までにミルクジカの個体数は中国全土の92か所の生息地で合計1万4千頭を超えるまでに回復しました。今回「鹿の王」の決定戦が見られた東洞庭湖の個体群は、その中でも再野生化が最も成功した例とされ、現在は数百頭規模の群れが暮らしています。
2025年5月には、東部の江蘇省・塩城市にある黄海の湿地でもミルクジカの姿が確認されており、中国各地で生息域が広がっていることがうかがえます。
なぜこのニュースをいま考えたいのか
ミルクジカの復活の物語は、中国の自然保護の成果であると同時に、気候変動や生物多様性の損失といった地球規模の課題を映し出しています。一度失われた種を取り戻すには、長い時間と継続的な投資、科学的なモニタリングが欠かせません。
東洞庭湖での「鹿の王」決定戦は、野生動物が本来持つ行動と、その背後で静かに進む保全の努力が交差する瞬間でした。衛星測位装置で一頭一頭の生き方を追いかける研究者たちと、繁殖の機会をかけて真正面からぶつかり合うミルクジカたち。その姿から、私たちは人間と野生がどのように共存していくべきかを考えるヒントを受け取ることができます。
通勤電車の中でスマートフォンをスクロールするわずかな時間でも、洞庭湖の静かな水辺で響く角同士の衝突音に耳を澄ませてみる。そんな想像が、国境を超えた生物多様性保全への関心につながっていくのかもしれません。
Reference(s):
Endangered milu deer fight for mating rights in Dongting Lake reserve
cgtn.com








