北京国際図書博で敦煌文化研究に脚光 プリンストン写真アーカイブが語る80年 video poster
北京で開かれた第31回北京国際図書博覧会で、敦煌文化研究に焦点を当てた特別展示が行われました。1940年代の写真アーカイブと最新研究を結びつけるこの試みは、中国の敦煌文化をめぐる国際的な学術交流の現在地を映し出しています。
敦煌は「生きている歴史」――研究者が語る魅力
展示会場で、中国中央美術学院人文学院の院長で教授の黄暁峰(ホアン・シャオフォン)氏は、敦煌の魅力を次のように語りました。
敦煌は、中国西部に広がる壮大な石窟群というイメージだけではありません。黄氏は、敦煌を「中国の伝統文化と美術が交差し、壮大な学術的遺産を形作っている場」だと位置づけます。
さらに、「敦煌を理解し、発見し、感じることは、〈生きている歴史〉を目撃することだ」と述べ、壁画や彫像を通じて、当時の人々の世界観や信仰、暮らしがいまも呼吸していることを強調しました。
「Loアーカイブ」から「Visualizing Dunhuang」へ
今回の展示は、「From Lo Archive to Visualizing Dunhuang: Discovering Princeton's Treasured Photographic Records in Eighty Years(Loアーカイブからビジュアライジング敦煌へ:プリンストン秘蔵写真記録の80年)」と題され、2021年にプリンストン大学出版局から刊行された全9巻の書籍シリーズを中心に構成されています。
このシリーズは、敦煌研究と美術史の成果を結集したものとされており、1940年代に写真家ジェームズ・ローとその妻ルーシー・ローが撮影した、甘粛省敦煌の莫高窟と榆林窟の写真3,000点以上を収録しています。
- 刊行元:プリンストン大学出版局
- 刊行年:2021年(現在も研究者や読者に広く参照されているシリーズ)
- 構成:全9巻
- 内容:敦煌・莫高窟と榆林窟の写真3,000点以上(1940年代撮影)
写真家夫妻と研究者がつないだ物語
黄氏は、このシリーズが「世代を超えた学者たちの努力の集大成」だと述べ、その中心にいる二組のキーパーソンとして、写真家ジェームズ・ローとルーシー・ロー夫妻、そして中国系アメリカ人の美術史家ウェン・フォンを挙げました。
今回の展示について黄氏は、「ロー夫妻とウェン・フォン、そして『Visualizing Dunhuang』シリーズにまつわる物語を伝えることが狙いだ」と話し、写真と研究がどのように結びつき、敦煌像を形作ってきたのかを来場者に問いかけています。
文明が交差する場としての敦煌文化
敦煌の歴史的な位置付けについて、敦煌研究院芸術研究部の孫志軍(スン・ジージュン)副主任も、展示会場でこう説明しました。
「敦煌文化は、誕生の時からさまざまな文明の交差によって形作られてきました」。シルクロードの要衝に位置する敦煌は、異なる地域の宗教、美術、思想が出会い、重なり合う場となってきたといいます。
孫氏は、とりわけロー夫妻の写真群として知られる「Loアーカイブ」の意義を強調しました。それは「複数の国の学者による国際的かつ学際的な協働の産物」であり、学問の歴史を研究するうえでも重要な資料だと位置づけています。
変化を記録する「視覚のタイムカプセル」
Loアーカイブは、1940年代に撮影が始まった、高い価値を持つ視覚資料の集成です。孫氏によれば、アーカイブ形成からおよそ80年しか経っていないものの、莫高窟の景観の一部は、当時の写真に残る姿と現在の姿とで変化が見られるといいます。
変化が確認できるのは、石窟群の外観だけではありません。特定の洞窟内部の様子についても、1940年代の写真と現在を見比べると差異が見えてくると指摘します。気候、風化、保存方法など、さまざまな要因が重なり合うなかで、写真は「その瞬間の敦煌」をとどめるタイムカプセルの役割を果たしているといえます。
プリンストン大学出版局が見る敦煌の普遍性
プリンストン大学出版局のディレクター、クリスティ・ヘンリー氏は、敦煌と出版プロジェクトの意味を、よりグローバルな視点から語りました。
ヘンリー氏は、「中国には世界のほかのどこにも見られない歴史がある」と述べ、国際的な出版社として世界各地の歴史を伝えることに強い意欲を示しました。そのなかでも敦煌は、「文化的・芸術的な存在として本当に卓越している」と評価します。
さらに、「このような作品が示す人間の創造性は、国際政治や交流の困難を超えて響くものです」と述べ、長い時間をかけて生み出された仏教美術を通じて、過去の人々の生き方や世界の捉え方を学ぶことができると強調しました。
「飛行機に乗らずに旅する」敦煌
ヘンリー氏は、書籍シリーズが果たす役割について、「世界中の多くの人々に、敦煌の石窟や彫像を〈旅する〉機会を与えてくれる」と表現しました。まだ敦煌を訪れたことのない人にとって、この本は「飛行機に乗らずに旅をする」手段であり、現地を訪れてみたいという思いをかき立てる存在にもなり得るといいます。
物理的な距離や時間の制約を超えて、写真と研究が一体となった書物が、読者と文化遺産をつなぐ媒介になっていることが浮かび上がります。
なぜ今、敦煌文化が国際ニュースになるのか
今回の北京国際図書博覧会での展示は、敦煌文化をめぐる国際ニュースとして、いくつかの示唆を与えてくれます。
- 国際協働のモデル
Loアーカイブは、複数の国・地域の研究者が協力して築き上げてきた成果です。敦煌研究が、国境や専門分野を超えたネットワークの上に成り立っていることを示しています。 - 文化遺産保護の重要性
わずか80年ほどの間にも景観が変化しつつあることは、記録と保存の重要性を物語ります。写真アーカイブは、未来世代にとっての貴重な「基準点」となります。 - 本を通じて世界とつながる体験
実際に敦煌を訪れることが難しい人でも、写真と研究成果を通じて、その歴史と美術に触れることができます。本というメディアが、世界の読者に開かれた窓になっていることが印象的です。
デジタル時代にあっても、紙の本と写真アーカイブがもつ力は小さくありません。敦煌文化をめぐる今回の展示は、私たちが世界の文化遺産とどう向き合い、どのように記憶していくのかを静かに問いかけています。
Reference(s):
Dunhuang culture studies in focus at Beijing International Book Fair
cgtn.com








