シンガポール首相、中国訪問前に語る「高品質な未来志向のパートナーシップ」 video poster
シンガポールのローレンス・ウォン首相が、中国メディア・グループ(CMG)の単独インタビューで、中国訪問を前に二国間関係の一層の強化に向けた考えを語りました。国交樹立35周年を迎える中での発言は、アジアや世界の経済秩序をめぐる議論とも重なり、日本の読者にとっても無視できないテーマです。
就任後初の中国公式訪問 3つの目的とは
ウォン首相にとって、今回が就任後初めての中国公式訪問です。首相は、この訪問には大きく三つの目的があると説明しています。
- 中国の指導者との関係をさらに深めること
- シンガポールと中国の二国間協力へのコミットメント(約束)を再確認すること
- 不確実性が高まる世界で、地域・世界の課題について率直に意見交換すること
両国は、国交樹立35周年を機に、「全方位的で、高品質かつ未来志向の関係」を掲げています。今回の訪問は、その方向性を実際の協力にどう落とし込むかを話し合う場にもなるとみられます。
インフラからイノベーションへ 二国間協力の進化
ウォン首相は、シンガポールと中国との協力は、従来のインフラ開発を中心とした枠組みから、より幅広いイノベーションへと進化していると強調しました。
これまでの代表的な取り組みとして挙げたのが、蘇州工業園区や天津エコシティです。いずれも初期段階のインフラ開発プロジェクトとしてスタートしましたが、いまでは次のような分野を含む「実験場」へと発展しているといいます。
- 持続可能性(サステナビリティ)
- 緑の成長(グリーン開発)
- デジタル・トランスフォーメーション(デジタル化による変革)
さらにシンガポールは、低炭素エネルギーやバイオ医薬品など、新たな分野での協力の可能性も探っていると説明しました。これは、両国が単なる製造やインフラの協力にとどまらず、次世代産業を見据えたパートナーシップへ踏み出していることを示しています。
中国の発展を「経済の奇跡」と評価
インタビューの中でウォン首相は、中国の発展を「経済の奇跡」と表現し、高く評価しました。具体的には、急速な都市の変貌や、人々のたくましさを挙げ、それが自らの統治(ガバナンス)への着想にもつながっているとしています。
また、中国の各レベルの指導者について、「有能で、現実的で、継続的な改善に強い意欲を持っている」と述べ、中国の今後の成長に強い自信を示しました。こうした評価は、信頼に基づくパートナーとして中国と向き合おうとする姿勢の表れとも言えます。
保護主義と関税の拡大に懸念 小さな開放経済が受ける影響
一方でウォン首相は、世界経済を取り巻く環境については厳しい見方を示しました。とくに、多国間主義(複数の国がルールを共有して協力する仕組み)からの「後退」と、保護主義の台頭を問題視しています。
首相は、米国による高関税の動きに言及し、広範囲な関税は持続可能な解決策ではないと指摘しました。米国内には、自国が国際秩序の維持に過大なコストを負担しているという不満もあるとしつつ、米国自身も、これまで自らが築いたルールに基づく国際システムの大きな受益者であったと述べています。
ウォン首相が特に懸念を示したのは、こうした一方的な措置が、シンガポールのような小さく開かれた経済に深刻な打撃を与えかねない点です。輸出入に依存する経済にとって、世界貿易の混乱はそのまま成長リスクになります。
首相は、「多国間主義は完璧ではないが、答えは『やめること』ではなく、『改革し、よりよい仕組みにしていくこと』だ」と述べ、制度そのものを放棄するのではなく、改善していくべきだとの立場を明確にしました。
ASEANやRCEP、CPTPPで協力を強化
ウォン首相は、こうした問題意識を踏まえ、シンガポールとして志を同じくする国々とともに地域の枠組みを強化していく考えを示しました。具体的には次のような協定や枠組みを挙げています。
- ASEAN(東南アジア諸国連合)
- RCEP(地域的な包括的経済連携)
- CPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)
また、中国がデジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)への参加を目指していることについて、シンガポールとして全面的な支持を表明しました。デジタル貿易やデータの流通を扱うこの枠組みは、今後の成長分野に直結するだけに、シンガポールと中国双方にとって重要な意味を持ちます。
さらに、最近合意に達したとされる中国・ASEAN自由貿易協定(FTA)3.0についても言及し、ウォン首相は「次回のASEAN・中国首脳会議が開催される10月に署名され、その後速やかに発効してほしい」と期待を述べました。これは、アジア地域での経済的な結びつきをいっそう強める動きといえます。
天津での「夏のダボス」で何を訴えるのか
ウォン首相は、天津で開かれる世界経済フォーラム「ニュー・チャンピオンズ年次総会」、いわゆる夏のダボス会議への参加も控えています。ここでも、各国に対し協力と開放への再コミットメント(再確認)を呼びかける考えを示しました。
首相は、もしルールや長年培われてきた協力の慣行が失われれば、どの国も利益を得られないと警鐘を鳴らしています。これは、特定の国だけでなく、世界全体に向けたメッセージでもあります。
日本の読者にとっての意味 シンガポール発メッセージが映すアジアの課題
今回のインタビューは、シンガポールと中国の二国間関係の話にとどまらず、アジア全体の課題を映し出しています。
- 保護主義と関税の応酬が続けば、輸出入に依存する多くのアジア経済が影響を受けること
- デジタル経済やグリーン成長など、新しい成長分野でのルール作りが急がれていること
- 多国間主義をどうアップデートし、現実の不満や格差に対応していくのかという問い
ウォン首相のメッセージは、小さく開かれた経済として世界と向き合うという点で、日本にも通じる部分があります。中国との建設的な関係を維持しつつ、ルールに基づく国際秩序をどう再設計していくか。その議論に、シンガポールの視点が一つのヒントを与えていると言えるでしょう。
Reference(s):
Singapore PM signals stronger bilateral ties ahead of China visit
cgtn.com








