AI国際ルール作りで国連に期待される役割とは UN諮問機関メンバーが語る video poster
国連のAIガバナンスでの役割は、自らが単独で行動する主体というよりも、各国や国際機関をつなぎ、協力を生み出す触媒になることにある──。中国科学院の曾毅教授で、国連のAI諮問機関メンバーでもある曾毅氏は、AIの国際ルール作りの方向性についてこうした見方を示しました。
一つのプラットフォームではAIの課題は解決できない
曾毅氏は、中国の国際放送局CGTNの特別番組「Embrace the AI era: Global Governance Initiative in action」に出演し、AIガバナンス(AIの開発・利用をめぐるルール作り)について議論しました。
その中で曾氏は、AIガバナンスの枠組みを一つに集中させるべきだという考え方に、明確に疑問を示しました。曾氏は次のように指摘しています。
- 一つのプラットフォームが、AIをめぐるあらゆる問題を解決できると期待すべきではない
- AIの課題は技術、倫理、経済安全保障など多岐にわたり、関わる主体も政府、企業、市民社会と多様である
つまり、AIガバナンスは単一の場に権限を集中させる発想ではなく、複数の枠組みが役割を分担しながら進むべきだという前提に立っていると言えます。
G20、BRICS、上海協力機構…それぞれの課題と国連
曾毅氏が強調したのは、既に存在する国際的な枠組みが、それぞれの立場からAIガバナンスに関わっているという点です。発言の中では、次のようなグループが例として挙げられました。
- G20(主要20か国・地域の枠組み)
- BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどの新興国グループ)
- 上海協力機構(安全保障や経済協力を進める地域協力機構)
曾氏によれば、これらのグループはそれぞれが抱える課題や優先事項に沿ってAIガバナンスに取り組んでいます。一方で、これらの取り組みを「ばらばらのまま」にしておくのではなく、一つの流れとして編み上げる存在が必要になります。
曾氏は、その役割を担えるのが国連だと述べました。G20やBRICSなどが個別の課題に向き合うのに対し、国連はそれらをつなぎ合わせ、全体としての方向性を示す場になり得るという見方です。
国連の役割は「主役」ではなく「触発する存在」
では、国連はAIガバナンスで何をすべきなのでしょうか。曾毅氏は、国連に対して「一つの万能な解決策を提示すること」を期待するべきではないとしつつ、次のような役割を強調しました。
- 国連の役割は、異なるメカニズムや国際機関を触発し、動かすこと
- 各国際機関がグローバルなAIガバナンスの全体像に貢献できるよう、方向性を示すこと
曾氏は、国連の役割について次のような趣旨を語っています。国連は、各国際機関がそれぞれの強みを生かしてAIガバナンスに参加できるよう促し、全体としての協調を生み出す存在であるべきだということです。
これは、国連がすべてのルールを細かく決める「指令塔」になるというよりも、議論の土台や価値観の方向性を示し、多様なプレーヤーが動きやすくする場になるというイメージに近いと言えるでしょう。
なぜ「触発する国連」が重要なのか
AIは国境を簡単に越えて使われ、経済や社会の隅々にまで影響を与えます。そのため、特定の国や特定のグループだけで完結するルール作りには限界があります。
曾氏が語る「触発する国連」というイメージには、次のような意味合いが読み取れます。
- 各地域やグループの事情を尊重しつつ、共通の土台を作る
- バラバラに進む議論を結びつけ、重なり合う部分を見つける
- 対立ではなく協調に向かうよう、議論の場を提供する
AIガバナンスの議論は、とかく「誰が主導権を握るか」という力学に注目が集まりがちです。しかし、曾氏のメッセージは、それとは少し違う視点を投げかけています。誰か一つの主体が主導権を握るのではなく、国連が全体の協調を後押しすることで、多層的なガバナンスが形づくられていくというイメージです。
日本やアジアの読者にとっての意味
日本を含むアジアの国々にとっても、AIガバナンスをめぐる国際ニュースは他人事ではありません。国連を中心とした議論や、G20、BRICS、上海協力機構など多様な場での議論は、将来のビジネス環境や技術開発の方向性に影響を与える可能性があります。
曾毅氏の発言からは、次のような問いかけが浮かび上がります。
- AIの利用をめぐるルール作りを、一つの場に任せきりにしていないか
- 自国や自地域の枠組みだけで物事を見ていないか
- 国連が示す方向性や価値観を、自分たちの議論にどう反映させるか
国際ニュースを日本語で追いかける私たちにとっても、「国連はすべてを決める場」という固定観念から一歩離れ、「さまざまな枠組みをつなぐ触媒としての国連」という見方を持つことは、AI時代の世界の動きを理解するうえで重要になりそうです。
これからのAIガバナンスをどう見ていくか
AIガバナンスをめぐる議論は、今後もG20やBRICS、上海協力機構、そして国連など、多数の場で続いていきます。曾毅氏の言葉は、その全体像を捉えるための一つのヒントを与えてくれます。
- 一つのプラットフォームに解決を求めすぎない
- 複数の国際枠組みが役割を分担していることを意識する
- 国連の動きを、他の国際機関との関係性の中で見る
AI時代の国際ニュースを読むとき、こうした視点を持つことで、表面的な対立や駆け引きだけでなく、その背後にある協力や調整の努力も見えやすくなります。国連の役割を「触発し、つなぎ合わせる存在」として捉え直すことは、AIとともに生きるこれからの世界を考えるうえで、私たちに新しい視点を与えてくれます。
Reference(s):
Expert: UN's role is to inspire, not act alone in AI governance
cgtn.com








