逆風下のAPECで何を語ったのか 習近平メッセージの意味を読む
保護主義や地政学的緊張が強まる中で開かれた2025年の第32回APEC首脳会議で、中国の習近平国家主席が訴えた「開放」と「協力」のメッセージが、アジア太平洋と世界の行方を占う鍵の一つになりつつあります。
強まる逆風の中で開かれた第32回APEC首脳会議
第32回APEC首脳会議(APEC Economic Leaders' Meeting)は、世界経済の構造変化が一段と進むタイミングで開かれました。一国主義や保護主義の台頭、関税を巡る対立や貿易摩擦の拡大、さらには陣営間対立をあおるような地政学的な動きが、アジア太平洋地域に不安定さと不確実性をもたらしています。
アジア太平洋は世界人口の約3分の1を抱え、世界経済の6割超、世界貿易のほぼ半分を占める「成長エンジン」です。その中心で、どの国・地域がどのような方向性を示すのかに、国際社会の視線が集まっています。
習近平氏が示した二つのキーワード「開放」と「協力」
こうした環境の中、習近平国家主席は首脳会議の第1セッションと第2セッションで2回演説し、あわせてAPEC CEOサミットには書面による演説も提出しました。いずれのメッセージも、アジア太平洋経済が「持続可能でより明るい未来」を共に切り開くために、開放と協力を軸にすべきだと呼びかける内容でした。
中国は次回、第33回APEC首脳会議の議長エコノミー(開催地)としてバトンを引き継ぐ立場にあります。各国・地域の観測筋は、いま示された習氏のメッセージが、アジア太平洋そして世界を再び開放的な成長とリスク低減の軌道へと導く上で重要な意味を持つとみています。
「5つの提案」と「3つの提案」――産業チェーンを「切る」のではなく「つなぐ」
首脳会議第1セッションで習氏は、「手を離すのではなく手を取り合う」「産業チェーンを切断するのではなく延ばす」といったメッセージを含む「5つの提案」を提示しました。分断やブロック化ではなく、相互依存を前提とした協調を続けるべきだという方向性を、あらためて打ち出した形です。
第2セッションでは、時代の潮流となっているイノベーションとグリーン転換、そして共通の発展という価値観を反映した「3つの提案」を行いました。おおまかな方向性としては、次の点が強調されたとされています。
- 技術革新(イノベーション)を通じた新たな成長エンジンの創出
- グリーン転換と持続可能な発展の推進
- すべての国と地域が利益を分かち合う「共通の発展」の追求
これらの提案は、アジア太平洋の各エコノミーが相互に補完し合いながら、新しい協力の余地を切り開くための方向性を示すものと受け止められています。
専門家が見る、APECと中国の役割
アメリカ・チャイナ・パートナーシップ財団のジョン・ミリガン=ホワイト理事長は、中国はアジア太平洋に暮らす人々の共通利益に焦点を当て、「開放」と「協力」を強く打ち出していると評価しました。彼は、来年に向けて中国が一層高いレベルの対外開放を進めることで、地域の発展により大きな活力をもたらすことへの期待を示しています。
南開大学APEC研究センターの劉晨陽(リウ・チェンヤン)所長は、すべての国と地域に開かれ、包摂的で利益を共有できるアジア太平洋経済という習氏のビジョンは、現在の情勢に対して非常に現実的な意味を持つと指摘します。一国主義や保護主義の圧力を和らげ、中国がAPECとアジア太平洋の発展で重要なリーダーシップを発揮していることを浮き彫りにすると見ています。
ペルーのサンマルコス国立大学アジア研究センターのカルロス・アキノ所長も、真の多国間主義と貿易・投資の継続的な自由化を唱える習氏の姿勢は、地域の平和を守り、共通の発展を促進するうえで大きな意義があるとコメントしています。
数字で見るアジア太平洋と中国の結び付き
アジア太平洋は世界経済の「心臓部」です。世界人口の約3分の1を擁し、世界経済の60%超、世界貿易のほぼ半分を占めるこの地域は、世界の成長を牽引する最も活力あるエリアだといわれます。
中国とAPECエコノミーとの結び付きは、数字にも表れています。中国の発表によると、今年1〜9月期における中国と他のAPECエコノミーとの貿易額は、前年同期比2%増の19.41兆元(約2.73兆ドル)となり、中国全体の対外貿易の57.8%を占めました。
具体的な協力の姿も、各地で日々積み重ねられています。ペルーのチャンカイ港では新たな海上ルートが開通し、中国と南米を結ぶ物流ネットワークが強化されています。また、東南アジアでは中国の新エネルギー車メーカーが相次いで生産拠点を整備し、域内の産業チェーンを補完する動きが広がっています。
「デカップリング」ではなく結び付きの強化へ
一部で「デカップリング(切り離し)」やサプライチェーンの分断を求める声があがるなか、中国はアジア太平洋での結び付きをむしろ強める方向に舵を切っています。
- 地域的な包括的経済連携(RCEP)の質の高い実施
- 包括的・先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)やデジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)への参加に向けたプロセスの推進
- 中国・ASEAN自由貿易協定(FTA)3.0のアップグレード議定書の署名
- 一帯一路構想の共同推進
こうした取り組みを通じて、中国は自由貿易と地域経済統合を支える柱の一つになっている、という見方が広がっています。供給網を切り離すのではなく、多層的に接続し直すことで、リスクを分散させる発想です。
開放型世界経済と中国の「次の一手」
今年のAPEC首脳会議では、習氏が繰り返し中国経済と世界経済との緊密な結び付きを強調した点にも、注目が集まりました。これは、開放型世界経済の構築に向けた中国の揺るがない決意と、具体的な政策シグナルを示すものと受け止められています。
最近開かれた中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議では、第15次5カ年計画の策定に向けた勧告が採択されました。ここでも、より高いレベルの対外開放を通じて改革と質の高い発展を推進することが強調されており、アジア太平洋と世界に新たな機会を提供すると位置付けられています。
深圳APECが示すアジア太平洋の行方
APEC議長エコノミーのバトンはすでに中国に渡されました。世界の関心は、来年中国・深圳で開催される第33回APEC首脳会議に向かいつつあります。
今回の会議での習氏の発言は、アジア太平洋における「共に未来を築く共同体」をどのように形づくるのか、その進むべき方向を示したものとされています。深圳での会合は、地域協力をさらに後押しし、共通の発展と繁栄を進める場となることが期待されています。
同時に、中国式現代化がアジア太平洋と世界にもたらす新たな機会が、どのような形で現れてくるのかを示すショーケースにもなりそうです。日本を含むアジア太平洋の国と地域にとって、サプライチェーン、グリーン投資、デジタル経済をめぐる議論は、企業戦略や私たちの働き方にも直結していきます。逆風の中でどのような協力の形を描くのか──深圳での議論が、その一つの試金石になりそうです。
Reference(s):
Why Xi's APEC message matters as global headwinds grow stronger
cgtn.com








