永久凍土に「記憶」がある?青蔵高原で気温上昇から10年のタイムラグを解明
気温が上昇しても、地中の氷はすぐに溶け出すわけではありません。中国科学院の北西生態環境資源研究所(NIEER)による最新の研究で、青蔵(せいぞう)高原の永久凍土には、過去の熱を蓄えておく「熱的な記憶」があり、気候変動への反応に数年から十数年の時間差があることが明らかになりました。
永久凍土が抱える「時間差」の正体
地球温暖化が進むなか、永久凍土の安定性は地球全体の気候調節において極めて重要な役割を担っています。もし凍土が広範囲にわたって融解すれば、土壌に蓄えられていた膨大な有機炭素が放出され、それがさらに温暖化を加速させるという「正のフィードバック」を引き起こすリスクが指摘されています。
しかし、地中の温度変化は地上の気温変化に即座に反応するわけではありません。NIEERの呉慶白(ウー・チンバイ)研究員らによると、永久凍土の熱挙動は以下のような複雑な要因によって調整されています。
- 地表面でのエネルギー交換
- 土壌内の水分と熱の移動プロセス
- 相変化(氷から水へ)に伴う潜熱
- 地下の熱伝導
こうした要因が組み合わさることで、気温の変化に対する「履歴現象(ヒステリシス)」や「熱記憶効果」が生じているということです。
地域によって異なる「記憶」の長さ
研究チームは2001年から2020年にかけて、54カ所のボーリング孔による長期的な現地観測データと高解像度の気候再解析データを統合して分析しました。その結果、気温の変化から永久凍土の熱状態に影響が出るまでには、平均して約8年から11年のタイムラグがあることが判明しました。
興味深いのは、この記憶の長さが地域によって異なる点です。
- 高原南東部(温暖湿潤な地域): タイムラグは約6〜8年と比較的短い。
- 高原北西部(寒冷乾燥な地域): タイムラグは約12〜15年とより長い。
この空間的なばらつきには、気圧や降水量といった大規模な気候条件が31〜51%寄与しており、局所的な要因としては地形や土壌水分が影響していると考えられています。
「今」の気温だけでは測れないリスク
この研究が示す最も重要な示唆は、現在の気温上昇スピードだけを見ていては、将来の凍土融解を正確に予測できないということです。NIEERの博士研究員、付子騰(フー・ズテン)氏は次のように指摘します。
「たとえ地表付近の気温上昇が一時的に緩やかになったとしても、過去に蓄積された熱の影響で、地下の永久凍土は温まり続け、劣化が進む可能性があります」
この「時間差」を理解することは、炭素放出リスクの正確な評価だけでなく、青蔵高原で展開される大規模なインフラ施設の安全性確保にとっても不可欠な視点となります。目に見えない地下で静かに進む変化をどう捉えるか。自然が持つ「記憶」のメカニズムを解き明かすことで、より精緻な気候変動予測への道が開かれそうです。
Reference(s):
Permafrost's decadal thermal memory unveiled on Qinghai-Xizang Plateau
cgtn.com