COP16リヤド行動アジェンダとは?砂漠化と土地劣化に挑む国際協力
COP16とリヤド行動アジェンダ:何が議論されたのか
2024年12月2日から13日まで、サウジアラビアの首都リヤドで国際条約「国連砂漠化対処条約(UNCCD)」の第16回締約国会議(COP16)が開催されました。条約発効から30年という節目の年に開かれたこの会議は、土地の劣化と砂漠化、干ばつへの対策を本格的に加速させる場となりました。
COP16のテーマは「Our Land. Our Future(私たちの土地。私たちの未来)」でした。このメッセージの下、各国はこれまでの議論を「約束」から「実行」へと進めることを目標にしました。その核となるのが、リヤド行動アジェンダと呼ばれる二本立てのアプローチです。
- 交渉トラック(Negotiation Track):各国が拘束力のある合意や決定をまとめる正式な交渉の場
- アクション・アジェンダ(Action Agenda):政府や企業、市民社会などによる自主的なコミットメント(約束)やプロジェクトを前面に出す場
法的な合意だけでなく、自主的な行動を引き出すこの仕組みが、リヤド行動アジェンダの特徴です。強制移住や食料不安、生物多様性の損失が深刻化する中、各国がどこまで具体的な行動に踏み込めるかに注目が集まりました。
3.2億ではなく32億人が影響:砂漠化・土地劣化のスケール
砂漠化と土地の劣化は、今や世界人口の約半分に迫る32億人に影響しているとされています。World Migration Report 2024は、気候変動と土地の劣化などにより、2050年までに2億1,600万人以上が国内移住を余儀なくされる可能性があると指摘しました。
なかでも干ばつは、2000年以降で発生件数が29パーセント増加し、農業に依存する地域を中心に、強制移住の主要な要因となっています。雨が降らず、井戸が枯れ、作物が育たない——そんな状況が、すでに多くの地域の日常になりつつあります。
経済的な損失も深刻です。土地の劣化による損失はこれまでに11兆ドル規模にのぼるとされ、国や地域の財政にも大きな負担を与えています。2030年までに「土地劣化中立(Land Degradation Neutrality)」を達成するためには、世界全体で15億ヘクタールもの劣化した土地を回復する必要があると見積もられています。
特に北アフリカや中東では、降雨パターンの乱れや地下水位の低下により、農業を続けることが難しくなっている地域が増えています。農村から都市への人口流出が進めば、都市インフラへの負荷が増し、社会不安につながるリスクも高まります。
中国の経験:環境回復と開発を両立させるアプローチ
こうした厳しい状況の中で、中国は砂漠化対策と土地回復で重要な役割を果たしてきました。1978年に始まった大規模な植林プロジェクト「Three-North Shelterbelt Forest Program(TSFP)」は、その代表例です。この長期プロジェクトは、2050年までに国土の42パーセントをカバーする「緑の防護壁」を形成することを目指しています。
中国はまた、農業廃棄物を活用した「チェッカーボード」技術でも注目を集めています。これは、ワラや枝などを格子状に並べて砂を固定する方法で、騰格里砂漠に面した甘粛省武威市などの地域で実践されています。この技術により、風で動きやすい砂丘が安定した地表に変わり、砂漠の拡大を食い止めることができています。
2012年から2022年の10年間で、中国は6,400万ヘクタールの劣化した土地を回復し、1,200万ムー(約80万ヘクタール)の湿地を再生し、さらに1億6,500万ムーの草地を改善したとされています。単に砂を止めるだけでなく、森林や湿地、草地など多様な生態系を再生する「総合的なアプローチ」が特徴です。
中国の取り組みは国内にとどまりません。近年は国際自然保護連合(IUCN)と協力し、沿岸地域の災害リスク低減や生態系回復に関するハンドブックを作成しました。塩性湿地や砂浜など、世界各地の沿岸生態系をどのように回復させるかについて、実務的な指針を提供することで、世界的な取り組みを支えています。
NENA地域の協力枠組み:地域連携による「底上げ」
一方で、近東・北アフリカ(NENA)地域では、砂漠化が農業や暮らしそのものを揺るがす存在的な脅威となっています。個々の国だけでは対策が追いつかない中で、地域連携に基づく解決策が模索されています。
UNCCDは、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)、アラブ連盟と連携し、「NENA Regional Restoration Pledge and Investment Framework(NENA地域回復誓約・投資枠組み)」を立ち上げました。
この枠組みは、単に土地を回復するだけではなく、次のような狙いを持っています。
- 土地回復を通じた持続可能な雇用の創出
- 農業や関連産業を中心とした新たな経済機会の開拓
- 持続可能な開発目標(SDGs)と連動した長期的な地域安定の実現
資金や技術が限られる国にとって、地域全体で知見と投資を共有することは大きな意味を持ちます。NENA地域の取り組みは、「一国だけでは対処しきれない課題に、どう協力して向き合うか」という点で、他地域にとっても参考になるモデルといえます。
リヤド行動アジェンダが示す「行動の時代」
リヤド行動アジェンダが象徴するのは、「合意文書を作るだけの会議」から、「具体的な行動を並行して動かす会議」への転換です。拘束力のある交渉トラックと、自主的なアクション・アジェンダという二つの車輪を組み合わせることで、実際の現場での変化を加速させることが狙われました。
アクション・アジェンダでは、国だけでなく、自治体、企業、研究機関、地域コミュニティなど、さまざまな主体による自主的な誓約やプロジェクトが重視されます。土地回復や干ばつ対策は、農業、都市計画、インフラ整備、教育など多くの分野とつながっているため、「誰がどこで何をするか」を具体化することが重要になります。
強制移住、食料安全保障、生物多様性の保全という三つの視点から見ても、リヤド行動アジェンダの意義は小さくありません。土地が回復すれば、人々が移住を迫られるリスクを減らし、農業生産を安定させ、野生生物の生息地を守ることにもつながります。
2025年のいま、私たちが見ておきたいこと
COP16からおよそ1年が経った2025年現在も、世界各地で干ばつや異常気象が続き、砂漠化と土地劣化の課題はむしろ重みを増しています。リヤド行動アジェンダで示された方向性を、各国や地域がどこまで継続的な行動に落とし込めるかが問われています。
今後、国際ニュースを追ううえで、次のようなポイントに注目してみると、COP16の意味合いがより立体的に見えてきます。
- 土地回復への投資が、食料安全保障や雇用、移住の動向にどのような影響を与えるか
- 中国やNENA地域の取り組みが、他の地域にどのように広がっていくか
- 自国や身近な地域での土地劣化対策が、気候変動政策や経済政策の中でどの位置づけにあるか
砂漠化と土地劣化の問題は、一見すると遠い地域の出来事に思えるかもしれません。しかし、それは食卓に並ぶ農産物の価格や、国際的な難民・移民の議論、さらには生物多様性や気候変動のニュースともつながっています。リヤド行動アジェンダを入り口に、「土地」という視点から世界を見直してみることは、2025年の私たちにとっても意味のある一歩になりそうです。
Reference(s):
Riyadh Action Agenda at COP16: A new era of global cooperation
cgtn.com








