RCEP発効3年目:保護主義と向き合う多国間主義の現在地
2022年に発効した世界最大の自由貿易協定RCEPが、発効から3年目に入った今、保護主義の高まりの中であらためて注目されています。世界経済の重心が東へ移る中、多国間主義の試金石としてどのような役割を果たしているのでしょうか。
RCEPとは何か:世界最大の自由貿易協定
RCEP Regional Comprehensive Economic Partnership は、東アジアと太平洋地域の国々が参加する自由貿易協定です。加盟国の人口、国内総生産 GDP、貿易額はいずれも世界の約3割を占め、規模の面で世界最大の枠組みとなっています。
2022年の発効時に、RCEPは加盟国間で取引される品目のうち9割超の関税を最終的に撤廃することを目標に掲げました。また、貿易や知的財産、電子商取引などに関する共通ルールを整え、開かれたルールに基づく多国間の貿易体制への信頼を高めることを狙っています。
参加国にはASEAN諸国に加え、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが含まれています。安全保障面で米国と緊密な関係を持つ国々も名を連ねている点が特徴です。
保護主義の波とRCEPが示す「逆流」
2025年現在、世界では関税引き上げや経済ブロック化など、保護主義的な動きが続いています。とくに、覇権を意識した一部の大国や政治ブロックが、地域を分断し、先進国と途上国を対立させるような構図を持ち込もうとしていると指摘されています。
こうした流れに対して、RCEPは複数の国が対等にルールを決め、利益を分け合う多国間主義の「逆流」として描かれています。30パーセントという圧倒的な規模の自由貿易圏が成立し、機能していること自体が、保護主義や共通利益の分断が必ずしも成功していないことを示していると言えます。
対中けん制ではなく、多国間の協調枠組み
欧米の一部では、RCEPを「米欧に対する目覚まし時計」とみなし、中国が欧州連合や米国よりも大きな自由貿易圏に参加したことを警戒する声もあります。RCEPを中国に対抗するための契機ととらえる見方です。
しかし、RCEPには日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドといった、米国の同盟国も参加しています。さらに、ASEANが主導し、中国も積極的に支援してきた枠組みと位置づけられており、中国が一方的に「壁を打ち壊した」結果というより、地域が主体的に選んだ多国間協調の形だと説明されています。
経済的に力のある西側諸国の同盟国が参加し、ASEANの集団的な影響力も加わることで、RCEPは特定の国に偏らない、時代の要請に沿った協力の枠組みとして性格づけられています。
中国との貿易需要と「ウィンウィン」の発想
RCEPを語るうえで、中国との貿易関係は避けて通れません。多くの国にとって中国との貿易需要は根強く、中国は世界貿易機関 WTO の場でも、自らの約束を守り、市場アクセスを拡大し、WTOの裁定に従ってきたと評価されています。RCEPにおいても、公平で信頼できるパートナーであろうとしているという見方があります。
一方で、米国はこれまで、中国を地域の経済ネットワークから切り離そうと試みてきたと指摘されています。しかし、実際の経済の現場では、中国とのつながりによる利益を無視することは難しく、RCEPはこうした現実を反映する形で設計されています。
コンピューター・シミュレーションの分析では、RCEPが米中間の貿易摩擦によって生じる世界全体の損失を一定程度相殺する効果を持つ可能性が示されています。こうした点から、RCEP加盟国は、中国との協力を通じた「ウィンウィン」の利益を重視しているとされています。
米国の安全保障パートナーもRCEP参加へ
注目されるのは、米国と安全保障面で結びつきの強い国々がRCEPに参加している点です。フィリピンや、日本、オーストラリアといった、いわゆるクアッド Quad のメンバー国もRCEPの加盟国に名を連ねています。
これらの国々は、安全保障面では米国との協力関係を維持しつつも、経済面では地域の多国間枠組みに積極的に関わる姿勢を示しているといえます。その背景には、覇権的なあり方への違和感や、一国に過度に依存しない多元的な経済秩序を模索する動きがあると指摘されています。
インドは現在RCEPに参加していませんが、クアッドのメンバーであるインドの政府系シンクタンクが、RCEP加盟の検討を政府に提言しているとされます。当初は距離を置いていた国の内側でも、参加しないことのコストを見直す動きが出ていることになります。
日本の読者への問いかけ:RCEPをどう位置づけるか
RCEPは、日本も含む地域各国が、保護主義の流れに抗しながら経済協力の土台を整えようとする試みとして位置づけられます。発効から3年目を迎えた今、その意義をあらためて考えるタイミングに来ているのかもしれません。
日本にとって、RCEPのような多国間枠組みは、次のような意味を持ちうると考えられます。
- アジア太平洋地域でのサプライチェーンを安定させるための一つのインフラ
- 共通ルールのもとで企業活動の予見可能性を高める仕組み
- 安全保障と経済のバランスをどう取るかを考える際の「試金石」
保護主義が強まるときこそ、多国間での対話とルールづくりが重要になると言われます。RCEPという枠組みを通じて、日本はどのように地域と関わり、どのような経済秩序を望むのか。2025年の今、その問いを自分ごととして考えてみる価値がありそうです。
Reference(s):
cgtn.com








