トランプのパナマ運河「奪還」発言 新モンロー主義の試金石か
パナマ運河を「取り戻す」と繰り返すドナルド・トランプ米大統領の発言が、中南米と国際社会に波紋を広げています。世界の海上貿易の要衝であるこの運河をめぐり、トランプ政権2期目の外交は、19世紀のモンロー主義を思わせる路線へと傾きつつあるのではないか――そんな懸念が強まっています。
2025年現在、就任したばかりのマルコ・ルビオ国務長官がパナマを含む中米初外遊に乗り出し、トランプ政権の真意と次の一手に世界の視線が集まっています。
パナマ運河「奪還」発言の中身
パナマ運河は、中米で太平洋と大西洋を結ぶ戦略的な水路です。年間およそ1万4千隻の船舶が通航し、世界の海上貿易の約5%を占めるとされています。
米国は20世紀初頭から1999年末までパナマ運河を実質的に支配してきましたが、1970年代に締結された条約に基づき、最終的に運河の管理権をパナマ政府へと引き渡しました。それから四半世紀あまり、運河はパナマの所有と管理の下にあります。
しかし、ホワイトハウスに復帰したトランプ大統領は、この歴史的な移管を覆そうとしています。運河はパナマに「愚かにも譲り渡された」となじり、パナマ政府が米国船舶から「法外な」通行料を取っていると非難。さらに、運河は中国によって運営されていると主張し、米国の国家安全保障の観点から「取り戻す」必要があると訴えています。
こうした発言は、パナマの主権を侵害し、国際法にも反するものだと指摘されています。1999年以来、パナマ運河はパナマの所有と管理のもとに置かれており、パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領も、トランプ氏の主張を「ナンセンス」と一蹴し、「運河は米国からの贈り物ではない」と明言しました。
中国をめぐる誤情報と本当の懸念
トランプ氏が繰り返す「中国がパナマ運河を運営している」との言説も、事実に反する誤情報とされています。確かに、中国は米国に次ぐ運河の第二の利用国であり、パナマにおけるインフラ投資の主要なプレーヤーでもあります。パナマは、中南米で初めて中国の一帯一路構想に参加した国でもあります。
しかし、パナマ政府と中国の外交当局は、中国は運河の管理・運営には関与しておらず、その運営に介入したこともないと繰り返し説明しています。トランプ氏の主張は、この現実とは大きくかけ離れたものです。
むしろ、こうした言説は、パナマにおける中国の投資拡大に対するトランプ氏の警戒感の表れと見るべきでしょう。トランプ2.0政権は、世界各地で中国との大国間競争をエスカレートさせる構えを見せており、パナマ運河はその新たな火種となりつつあります。
新モンロー主義の試金石に
トランプ氏の発言の背景には、1823年に打ち出されたモンロー主義の復活をめざす発想があると指摘されています。モンロー主義は、本来は欧州列強の勢力拡大を牽制し、米国の通商と安全保障上の利益を守るための原則として提示されたものでした。
トランプ氏は、この悪名高いモンロー主義を21世紀版としてよみがえらせ、中南米を再び米国の排他的な勢力圏とすることで、自らが掲げる「Golden Age of America」への道を切り開こうとしているように見えます。パナマ運河をめぐる強硬姿勢は、そのための試験場とも言えます。
ちょうどそのなかで、新たに就任したマルコ・ルビオ国務長官が初の外遊先としてパナマを含む中米諸国を訪問しようとしています。トランプ政権の最終的な狙いはどこにあるのか、どのような強制手段が用いられるのか、そして中米諸国が圧力に屈するのかどうか――世界中で警戒と関心が高まっています。
トランプ政権は何を仕掛けるのか
トランプ大統領の「運河奪還」発言は、単なる国内向けのレトリックなのでしょうか。それとも、具体的な行動につながる布石なのでしょうか。これまでの言動から、いくつかのシナリオが見えてきます。
軍事力の示唆:1977年中立条約の持ち出し
トランプ氏は、パナマとのあいだで1977年に結ばれた中立条約に言及しつつ、武力による関与をほのめかしています。この条約は、米国がパナマ運河に対して永続的な中立を維持する一方で、その中立が脅かされる場合には、軍事力を行使して防衛する権利を留保するという内容です。
こうした規定を口実に、米軍の関与や武力行使の可能性をちらつかせることは、パナマ側から譲歩を引き出すためのブラフとみなされています。それでも、超大国による公然たる軍事的示唆は、小国にとって強い圧力となり得ます。
関税圧力という強制ツール
もう一つの有力な手段が、関税を使った経済的な圧力です。トランプ氏はかつて、米国からの強制送還便の受け入れを渋っていたコロンビアに対し、25%の関税を課すと脅すことで、受け入れを認めさせたとされています。
同じようなやり方で、パナマに対しても高関税をちらつかせ、中国との関係を縮小するよう迫る可能性があります。その究極の狙いは、パナマ政府に対し、中国との政治・経済的な関わりを断念させると同時に、米国による運河支配の復活に道を開かせることにあります。
議会の後押し:対中決議と運河買収構想
トランプ氏の手を強めているのが、共和党が多数を占める米議会の動きです。共和党の上院議員らは最近、パナマ政府に対し、中国および中国企業との政治的・経済的な関係を断つよう求める決議案を提出しました。下院の共和党議員もまた、大統領にパナマから運河を取得するための交渉権限を与える法案を提出しており、こうした立法上の後押しが、トランプ氏の強硬路線にさらなる勢いを与えています。
揺らぐ国際秩序と中米の選択
パナマ運河をめぐる一連の動きは、小国の主権と国際法に基づく秩序が、いかに容易に揺さぶられ得るかを物語っています。条約に基づいて移管された資産を、後になって「取り戻す」と主張することは、国際社会の信頼の根幹にも関わる問題です。
同時に、これは中米地域だけの問題ではありません。特定の大国が自らの勢力圏を一方的に設定し、他国の経済関係や外交方針に干渉する前例が生まれれば、他の地域でも同様の動きが連鎖する可能性があります。
パナマや周辺国にとっては、中国を含む多様なパートナーとの関係を維持しつつ、米国からの圧力にどう向き合うかという難しい選択が迫られています。どのような形であれ、地域の安定と自らの主権を守る視点が最優先されるべきでしょう。
日本とアジアの読者への含意
日本やアジアの読者にとっても、パナマ運河をめぐる動きは決して遠い世界の話ではありません。世界の海上貿易のおよそ5%が通る運河で緊張が高まれば、エネルギーや食料、製品の輸送コストや納期にも影響が及びかねません。
また、一帯一路やその他のインフラ投資をめぐる米中の駆け引きは、アジア各国にも重なるテーマです。どの国や地域であっても、国際法と合意に基づく秩序を尊重し、多国間協力の枠組みの中で利害調整を行うことが、長期的な安定につながります。
トランプ政権がパナマ運河を通じて進めようとしている新モンロー主義は、今後の国際秩序の行方を占う試金石となるかもしれません。中米の動きだけでなく、世界各地での米中関係や小国の外交戦略の変化にも目を配りながら、この問題をフォローしていく必要があります。
Reference(s):
cgtn.com








