APECの包摂的イノベーションと米国の技術覇権 韓国会合で浮かぶ矛盾 video poster
2025年に韓国・慶州で開かれたAPEC首脳会議では、包摂的なイノベーションとデジタル経済を掲げる一方で、米国の技術覇権との矛盾が改めて浮かび上がりました。
マレーシアの首相府で上級顧問を務めた経歴を持つジョン・パン氏は、APECを特集するCGTNの動画の中で、米国が進めるデカップリング政策や対中国の技術制裁が、APECの公式アジェンダと正面から矛盾していると指摘しました。
ワシントンのデカップリングが生む「断絶」
パン氏は「ワシントンは世界を意図的に切り離そうとしている」と述べ、米国が一方的な技術制裁や半導体分野での圧力を通じて、中国との間で「強制的な半導体戦争」を展開していると批判しました。
こうした動きは、中国だけでなく、サプライチェーンに深く組み込まれたASEAN諸国、さらには世界経済全体を傷つけているといいます。イノベーションは本来、知識や人材、データが国境を越えて行き来することで加速しますが、デカップリングはその流れを分断し、コストと不確実性を高めます。
APECが掲げる「包摂的イノベーション」
一方で、APEC自体は近年、「包摂性」をキーワードにイノベーション政策を打ち出しています。とくに昨年のリマ会合以降、デジタル格差の解消や中小・零細企業の支援、インフォーマル経済への支援をうたうリマ・ロードマップの実施が強調されています。
パン氏は、こうした包摂的な成長を目指すAPECの公式ストーリー自体は評価できるとしたうえで、「グローバル・サウスの国々や周縁化された人々の利益を含めることは、持続可能な国際経済秩序の前提だ」と語りました。
デジタル貿易ルールに潜む構造的な矛盾
しかし、パン氏によれば、過去のAPECはしばしば、別の構造的アジェンダに奉仕してきました。その結果、表向きは「ウィンウィン」を掲げながら、現実にはゼロサム的なアウトカムを生み出してきた面があるといいます。
その典型として挙げたのが、今回の慶州会合でも議題となったデジタル貿易です。米国はAPECを通じて、越境データ流通の自由化と、各国によるデータの国内保存義務(データ・ローカライゼーション)への反対を一貫して推し進めてきました。
パン氏は、こうしたルール作りは次のような結果を招いてきたと指摘します。
- 米国の巨大テクノロジー企業が、APECの21のエコノミーから膨大なデータを収集する。
- 収集したデータを自国のサーバーで処理し、AIやデジタルサービスとして高付加価値化する。
- そのサービスを再び各エコノミーに販売することで、データと利益の循環が米国企業に集中する。
これは、グローバル・サウスの国々が自らのデータをもとに主権的にAIを育て、デジタル経済を発展させようとする「デジタル主権」や「主権的AI」の利益と真っ向から衝突するとパン氏は述べました。
APECの物語を現実に近づけるには
パン氏は、「包摂性」はもはやスローガン以上のものであり、今後構想されるどんな国際秩序であっても欠かせない条件だと強調します。そのうえで、APECが掲げる包摂的イノベーションの物語を、デジタル貿易やデータルールといった具体的な制度設計にまで落とし込めるかどうかが問われていると示唆しました。
韓国・慶州での2025年APEC会合は、アジアとグローバル・サウスの視点から、次のような問いを突きつけています。
- デカップリングと制裁に依存しない形で、イノベーションと安全保障をどう両立させるのか。
- データとAIの時代に、各国が自らのデジタル主権をどう守り、協調と開放のバランスを取るのか。
- APECは、包摂的な成長という自らの物語に見合うルール作りへと舵を切れるのか。
アジア太平洋の経済とテクノロジーの行方を考えるうえで、APECのイノベーション論と米国の技術覇権との関係は、2025年の今もなお注視すべきテーマとなっています。
Reference(s):
cgtn.com








