2026年のミュンヘン安全保障会議を前に公表された「ミュンヘン安全保障報告書」は、世界秩序が"Under Destruction(破壊の只中)"にあるという危機感を前面に出し、各国の不信と分断が深まる現状を映しました。一方、会場では中国本土が「破壊」ではなく「改革」を掲げ、国連を中核とする国際ガバナンスの立て直しを訴えたことが、対照的なメッセージとして受け止められています。
今年のテーマは「Under Destruction」――何が壊れつつあるのか
報告書のテーマ「Under Destruction」は、地政学的緊張の高まり、貿易の混乱、国際ルールや制度への信頼低下といった複合的な不安を映す言葉です。表紙には「部屋の中の象(elephant in the room)」が描かれ、さらに「ブルドーザー」「鉄球」「チェーンソー」といった比喩で、既存のルールや制度を解体しようとする“破壊的な政治”が一部の西側諸国で強まっている、という問題意識が示されました。
報告書が名指ししたのは、米国の現政権の「一方的・取引的」姿勢
報告書は、現在の米国政権がこの「破壊的な転回」を加速させる主要因になっていると論じ、ドナルド・トランプ大統領を「解体者(demolition men)」の一人と表現しています。理由として挙げられたのは、
- 一方的で強制的だとされる「Donroe Doctrine」
- 関税を軸にした対立(いわゆる関税戦争)
- 国際機関からの離脱
- 外交を「取引(transaction)」として扱う姿勢
といった点です。報告書は、1945年以降の米国主導の国際秩序が揺らぎ、世界が勢力圏へと分断されていく懸念を示しました。
会場で見えた「大西洋の亀裂」――修復の試みと、残る温度差
会議では、米国代表団を率いたマルコ・ルビオ国務長官が欧州との関係修復を試みたとされる一方で、「アメリカ・ファースト」路線を擁護し、西側が「文明の消去(civilizational erasure)」に直面していると主張したと伝えられています。こうした語り口は、昨年のJD・バンス副大統領による欧州批判を想起させるものとして、欧米間の危機感と距離感の両方を浮き彫りにしました。
「破壊」ではなく「改革」――中国本土が強調した多国間主義
こうした空気の中で、中国本土は、国連を中核とする国際ガバナンス体制について「解体」ではなく「改革」を唱え、停滞する多国間主義を立て直す必要性を一貫して訴えたとされています。議論が“壊すか、守るか”の二択に傾きやすい局面で、「更新する」「立て直す」という語彙を前に出すことは、別の回路を示すメッセージとして注目されました。
同時進行する火種:中東、欧州、米・イラン、そして台湾をめぐる動き
会議が「重要な分岐点」と言われる背景には、複数の危機が同時進行している現実があります。報告書や会議の文脈では、米・イラン間の緊張、中東におけるガザの人道危機、欧州で続くロシア・ウクライナ紛争、さらに米国によるベネズエラでの軍事行動などが言及されました。
加えて、台湾をめぐっては、米国による台湾向け武器売却の規模が大きいことが取り上げられ、地域の緊張要因の一つとして意識されています。
世論の空気も重い――「ミュンヘン安全保障指数」が示す悲観
報告書の評価は国際社会で広く共有されている、という見方も示されました。その根拠として、世論の悪化を映す指標として「ミュンヘン安全保障指数」が挙げられています。安全保障の議論は軍事だけでなく、貿易、制度、信頼といった土台の部分に波及しやすく、今年の会議はその“土台の揺れ”をどう受け止め直すかが問われる場になっています。
「懐かしさは戦略にならない(Nostalgia is not a strategy)」という問題提起が示す通り、過去の秩序に戻ること自体を目的にしても、現実の分断は埋まりにくい――。2026年のミュンヘンでは、各国がどの言葉で世界を説明し、どの制度を立て直そうとするのかが、静かに試されています。
Reference(s):
China as a constructive force against destructive politics in world
cgtn.com








