2ナノメートル半導体とは?ASMLが握る世界チップ競争の裏側
スマホの電池が何週間も持ち、ノートPCが4K動画を一瞬で書き出し、腕時計型デバイスが体調の異変を事前に察知する――。こうした未来像のカギを握るのが、原子レベルの小ささまで縮んだ「2ナノメートル(2nm)チップ」です。2025年の今、この2nmをめぐって、企業と国が静かな競争を繰り広げています。
2ナノメートルチップとは何か
半導体の世界でよく耳にする「◯ナノメートル(nm)」という言葉は、かつてはトランジスタの長さなど、回路の物理的なサイズをそのまま表していました。しかし現在では、必ずしも実際の長さを指すわけではなく、チップの世代や製造プロセスを示す「ブランド名」のような意味合いが強くなっています。
それでも、数字が小さくなるほど、一般にチップの処理速度は高まり、消費電力は少なくなるとされています。より細かく回路を刻めれば、同じ面積に多くのトランジスタを詰め込めるため、高性能で省エネなチップが実現しやすくなるからです。
AppleやIntelといった大手企業は、次世代のスマートフォンやパソコンで優位に立つため、この2nm世代のチップをいち早く採用しようと競争を続けています。
ブランドの裏側にある「つくる人」と「つくる場所」
私たちが店頭やニュースで目にするのは、「Intel Core i7」「Apple M4」「Snapdragon 8 Gen 3」といったブランド名です。しかし、こうした名前のチップを掲げる企業が、自社工場でチップを製造しているとは限りません。
AppleやQualcomm、そして多くのIntel向けチップは、台湾地域に本拠を置く台湾積体電路製造(TSMC)が製造しています。TSMCは、世界中の企業から設計データを受け取り、注文に応じてチップを量産する代表的な企業です。
一方、Intelや韓国のSamsungのように、自社でチップ工場(ファブ)を持ち、自分たちで設計したチップを自らの工場で生産する企業もあります。半導体産業は、このように設計する企業と製造を請け負う企業が分業する構造が特徴です。
そして、この分業構造のさらに奥で、ほぼすべての最先端メーカーを支えている「見えない巨人」が存在します。
ASMLという「見えない巨人」
TSMC、Intel、Samsung――世界トップ級のチップメーカー3社に共通するのは、いずれも同じオランダ企業ASMLの装置に依存しているという点です。ASMLは、半導体製造の要となる「露光装置」をつくる企業で、その技術力は事実上ほぼ独占的な存在だとされています。
ASMLの「NXE」と呼ばれる露光システムは、「極端紫外線(EUV)」という非常に波長の短い光を使い、シリコンウエハーの上にチップの回路パターンを焼き付けます。2018年ごろから、このEUV技術が本格的に量産ラインで使われるようになり、高性能PCやスマートフォンの心臓部となるチップの製造を支えてきました。
現在、IntelはASMLの新世代装置「EXE」シリーズのテストを進めており、これをてこに自社のチップ製造ビジネスを立て直そうとしています。2nm世代の競争は、設計企業同士の競争であると同時に、ASMLのごく限られた台数の装置を誰が確保できるかという競争でもあります。
制裁と中国本土:最先端ではない市場での勝負
では、もしASMLの最新装置を手に入れられなかったら、どうなるのでしょうか。その一例として語られることが多いのが中国本土です。
中国本土は、米国による制裁措置によりASMLの最先端装置へのアクセスが制限されており、28ナノメートル(28nm)世代など、比較的古い製造技術にとどまっているとされています。
ただし、あらゆる電子機器が2nmのような最先端チップを必要としているわけではありません。多くの家電製品や産業機器、自動車の一部の部品などは、28nmクラスのチップでも十分に動作します。
中国本土は、こうした「最先端ではないが需要が大きい」分野で競争力を高めることで、制約のある環境の中でも半導体産業を成長させようとしています。ここには、技術力だけでなく、貿易政策や輸出管理が半導体ビジネスに大きく影響している現実が表れています。
日本・Rapidusの2nm挑戦
2nmをめぐる世界の競争には、日本も新たに参入しようとしています。その象徴的な存在が、国産の最先端ロジック半導体の量産をめざすRapidusです。
Rapidusは、ASMLのNXE露光装置を導入して2nm世代のチップ製造に挑む計画を進めています。報道によると、同社はスマートフォン向けのような大量生産品よりも、特定分野に特化した「ニッチ」なチップ市場を主なターゲットに据えることで、激しい競争の中で生き残りを図ろうとしているとされています。
世界的な大企業と真正面から量とコストで争うのではなく、用途を絞り込んだ高付加価値分野にフォーカスすることで、存在感を確保しようとする戦略だと見ることができます。
2025年の今、2nm競争をどう見るか
2025年12月現在も、2ナノメートル世代をめぐる開発・量産競争は続いています。ASMLのような装置メーカー、TSMC・Intel・Samsungといった製造企業、中国本土や日本のRapidusなどの動きが、これからのデジタル社会を大きく左右する可能性があります。
私たちが押さえたい3つのポイント
- 2nmのような最先端チップは、スマホやPCの電池持ちや処理速度を高めるだけでなく、医療・ヘルスケアなどの新しいサービスを支える基盤になり得ます。
- チップ競争の裏側には、ASMLに代表される製造装置メーカーと、それをめぐる輸出規制や制裁といった国際的なルールづくりの動きがあります。
- 中国本土のように成熟した製造技術を武器にする戦略や、日本のRapidusが狙うニッチ市場など、多様なプレーヤーがそれぞれの強みを生かして半導体エコシステムを形づくっています。
次にスマホやPCを買い替えるとき、スペック表の「◯nm」という小さな数字の裏側には、こうしたグローバルな力学と技術の積み重ねがあることを思い出してみると、ニュースの見え方も少し変わってくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








