トランプ大統領「America is back」就任後初の米議会演説が映す分断
2025年1月の再就任からわずか約6週間。ドナルド・トランプ米大統領が「America is back(アメリカは復活した)」と高らかに宣言した就任後初の米議会演説は、貿易戦争、財政赤字、社会の分断という現在のアメリカを象徴する場になりました。
「America is back」と誇示した就任後初の米議会演説
火曜日の夜、トランプ大統領は連邦議会上下両院合同会議で初めての演説に臨みました。2025年1月20日の再就任からおよそ6週間、外交政策の再構築や通商政策の急転換、人員削減などで政権が大きく揺れる中での登場です。
トランプ氏は冒頭、「同胞のみなさん、America is back」と宣言し、与党・共和党議員からスタンディングオベーションを受けました。「わが国は世界がかつて見たことのない、そして今後も二度と見ないであろう復活の瀬戸際にある」と、自らの政権運営に自信を示しました。
一方で、この6週間でトランプ政権はメキシコ、カナダ、中国に対する大幅な追加関税を発動し、金融市場は2日続けて動揺しました。また、連邦政府の職員を「数万人規模」で解雇するなど、ワシントンの行政機構にも大きな変化を加えています。
外交パートは数分 ウクライナとロシア、中東への言及
今回の演説で外交に割かれた時間はわずか数分でしたが、いくつか重要なシグナルが含まれていました。
- ウクライナとの鉱物資源をめぐる取引について、先週のホワイトハウス会談が「惨憺たる結果」に終わった後も、合意に向けて前進する意欲を示したこと
- ロシアとは「真剣な協議」を行っており、「彼らは和平に応じる用意があるという強いシグナルを送ってきている」と述べたこと
- 中東和平と、イスラエルとアラブ諸国との国交正常化を進めてきた「アブラハム合意」をさらに拡大すると改めて約束したこと
トランプ氏はロシアとの関係について「それが実現したらどれほど素晴らしいことだろうか」と語り、対立よりも取引を好むスタイルを改めて強調しました。ただし、具体的な提案やタイムラインには踏み込みませんでした。
財政均衡と大型減税という矛盾したメッセージ
国内政策で目を引いたのは、連邦政府の財政赤字を「均衡させる」と約束する一方で、大規模な減税を議会に求めた点です。
トランプ氏が掲げる減税案は、専門家の試算では今後数年で5兆ドル超を新たに国債残高に上乗せし、すでに36兆ドル規模とされる連邦政府債務をさらに押し上げる可能性があります。米議会は今年後半までに法定の債務上限(デットシーリング)を引き上げなければ、債務不履行(デフォルト)のリスクも指摘されています。
財政を健全化すると約束しつつ、税収を減らす政策を同時に推し進めるトランプ氏の姿勢は、今後の予算審議と債務上限問題をめぐる与野党の攻防をさらに激しくする要因になりそうです。
選挙集会さながらのトーン 移民と性の多様性を標的に
演説のトーンは、選挙キャンペーンの集会を思わせるものでした。トランプ氏は民主党出身の前任者ジョー・バイデン氏を何度も名指しで批判し、移民犯罪者を強い言葉で非難。さらに、自ら「トランスジェンダー・イデオロギー」と呼ぶ考え方を禁止すると約束しました。
発言の中には、事実関係が疑問視されるものや、統計と一致しないと指摘される主張も含まれていると報じられています。人権団体やLGBTQ+の当事者からは、性的マイノリティーの権利を後退させかねないとの懸念の声も上がっています。
民主党の抗議と「冷戦世代」の反論
野党・民主党は、本会議場で異例の形で抗議の意思を示しました。議場の民主党議員たちは「No King!(王はいらない)」「This Is NOT Normal(これは普通ではない)」と書かれた紙を掲げ、演説が終わる頃には約半数が途中退席したと伝えられています。
テキサス州選出のアル・グリーン下院議員は、議長の着席命令に従わなかったとして退場処分となりました。トランプ氏はこうした混乱も意に介さない様子で、「目の前の民主党議員を見ていると、彼らを喜ばせたり、立ち上がらせたり、笑わせたり、拍手させたりする言葉は何一つ思い浮かばない」と皮肉を込めて語りました。
この演説が行われたのは、4年前、2021年にトランプ氏の支持者らの一部が議会議事堂に乱入し、バイデン氏の2020年勝利の認定を妨害しようとした現場と同じ下院議場です。当時、議員らは身の危険を感じて避難を余儀なくされました。
民主党側の公式な反論演説を担ったのは、中道派のエリッサ・スロットキン上院議員でした。スロットキン氏は冷戦時代に育った「Cold War kid(冷戦世代)」だと自らを紹介し、「1980年代にホワイトハウスにいたのがレーガンであってトランプでなかったことに感謝している。トランプなら冷戦に負けていただろう」と述べ、対ソ連強硬派として知られるロナルド・レーガン元大統領と比較しながらトランプ氏の外交姿勢を批判しました。
さらに同氏は、「トランプ氏の行動を見ると、彼の心の中ではアメリカを特別な国だと信じていないのではないかと感じる」と述べ、アメリカ例外主義への信頼を問い直しました。
深まる分断と2025年のアメリカをどう読むか
就任からわずか数週間での今回の演説は、トランプ政権第2期の方向性を象徴的に映し出しました。
- 通商面では、メキシコ・カナダ・中国への大規模関税による「貿易戦争」が、サプライチェーンや世界経済に波紋を広げる可能性
- 財政面では、減税と債務上限問題が組み合わさることで、市場と政治の不安定要因となるリスク
- 社会面では、移民やLGBTQ+をめぐる対立が一段と深まり、「これは普通ではない」と感じる人々と、それを歓迎する人々との溝が広がっていること
日本やアジアにとっても、アメリカの通商政策や財政運営は、自国経済や安全保障に直結する重要なテーマです。トランプ氏の「America is back」という言葉が、国際秩序にとってどのような意味を持つのか。2025年のアメリカ政治を見ていく上で、この早期の議会演説は一つの重要な手がかりになりそうです。
Reference(s):
Trump touts start to term in Congress, drawing catcalls from Democrats
cgtn.com








