スペイン住宅危機:観光向け高級化で追い出される住民たち
スペインで住宅危機が悪化するなか、投資ファンドに買収された一つの集合住宅が、住民と観光ビジネスのせめぎ合いを象徴する場所になっています。12年間暮らしてきた家を追われるかもしれない子育て世帯の声から、いまのスペインの住宅事情を考えます。
住宅危機の象徴となった「Tribulete通り7番地」
スペインのTribulete通り7番地に建つ集合住宅は、いまや地元の人々にとって住宅危機と闘う象徴的な住所になっています。ここで暮らすハイメ・オテイサさん(Jaime Oteyza)は、12年前から家族とこの建物で生活してきました。
ハイメさんには2人の幼い子どもがいます。男の子と女の子で、下の子マヤはまだ2歳です。子どもたちが通う学校も近く、これまでの生活圏はこの周辺に集中してきました。
家族所有から投資ファンドの資産へ
もともとこの建物は、ある家族が所有していました。しかし現在は状況が大きく変わっています。Elix Rental Homesという投資ファンドが、全52戸のフラットをまとめて購入したのです。
近隣の住民たちは、この投資ファンドをハゲタカ・ファンドと呼びます。理由ははっきりしています。住民によると、このファンドは既存の入居者を退去させ、建物全体を高級アパートや観光客向けの短期賃貸に転換し、より大きな利益を上げようとしているからです。
ハイメさんは「彼らは私たちに出て行ってほしいのです」と話します。かつては普通の賃貸住宅だった建物が、投資の対象へと変わりつつあるなかで、そこに暮らす家族の不安は高まっています。
安定した仕事があっても「住み続けられない」
ハイメさんは建築家、パートナーは心理士と、2人とも安定した職業に就いています。それでも、この地域で住み続けることはどんどん難しくなっているといいます。
スペインでは住宅価格と家賃が大きく上昇し、賃金の伸びがそれに追いついていません。ハイメさん一家も例外ではなく、収入の多くが家賃や住宅費に消えていきます。
もし今の住まいを追い出され、子どもたちの学校がある同じ地域で新たな物件を借りようとすると、家賃は現在の倍近くに跳ね上がる見込みです。ハイメさんは、「この地域で新しく家を借りれば、家賃はほぼ2倍になるでしょう。購入なんて、今の価格ではまったく手が届きません」と語ります。
一家はすでに、この近隣で家を購入することはあきらめたといいます。住宅が「暮らす場所」から「投資商品」へと変わるにつれ、中間層の家族でさえ、長年住み慣れた地域にとどまることが難しくなっている現実が浮かび上がります。
観光か生活か、揺れる都市の優先順位
今回のケースで投資ファンドが狙うのは、高級アパートや観光客向けの短期滞在用物件です。観光需要の高まりとともに、短期賃貸は大きな収益源となり得ますが、その一方で、長年その土地で暮らしてきた住民の居場所が奪われていきます。
Tribulete通り7番地の対立は、次のような問いを突きつけています。
- 住宅を、投資対象としてどこまで優先させてよいのか
- 観光や短期賃貸の拡大と、地元住民の生活基盤をどう両立させるのか
- 安定した仕事を持つ人でも住み続けられる都市の条件とは何か
観光産業や不動産投資そのものが悪いわけではありません。しかし、今回のように一つの建物全体が投資ファンドの手に渡り、そこで暮らしてきた複数の家族が一度に退去を迫られる状況になるとき、都市が何を大切にしているのかが問われます。
「家」とは何かを問い直すスペインの住宅危機
ハイメさん一家の物語は、スペインの住宅危機が単なる経済指標の問題ではなく、一人ひとりの生活やコミュニティのつながりに直結した問題であることを示しています。
子どもの学校、近所づきあい、通い慣れた店や公園。12年間の暮らしのなかで積み重ねてきた関係を断ち切ることは、単に「新しい家を探す」という作業では済みません。住まいを失うことは、生活の基盤と記憶、そして未来の見通しを同時に揺るがす出来事です。
観光と投資が進む都市で、誰がどこで、どのように住み続けることができるのか。Tribulete通り7番地から聞こえてくる声は、多くの都市がこれから向き合わざるをえない問いを、静かに、しかし切実に伝えています。
Reference(s):
‘They want us out for tourist lets’ – Spain’s homes crisis worsens
cgtn.com








