ポルトガル最後のサーカス象が「引退生活」へ。動物エンタメの転換点となる聖域への旅路
ポルトガルで最後にサーカスに所属していた象のジュリーが、来月6月、南部アレンテージョにある聖域(サンクチュアリ)へと移住します。これは単なる一頭の象の引退ではなく、欧州全土で加速している「動物によるパフォーマンス禁止」という大きな時代の潮流を象徴する出来事です。
40年の歩みと、新たな居場所
ジュリーは南アフリカ出身の約40歳の象で、1988年にヴィクトール・ウーゴ・カルディナリサーカスに加わりました。長年、人々に親しまれてきましたが、ポルトガルが動物によるパフォーマンスを禁止した2024年以降は、ショーに出演することはありませんでした。
ジュリーが向かうのは、イギリスが運営する「パンゲア・トラスト(Pangea Trust)」の聖域です。ここには、ベルギーの動物園から移住したカリバという象も待っており、ジュリーはそこで穏やかな余生を過ごすことになります。
欧州に広がる「600頭の課題」
動物福祉への意識が高まる欧州では、法整備が進み、多くのサーカスや動物園が象の飼育を困難な状況に置いています。しかし、法的な禁止が進む一方で、受け入れ先の確保という現実的な課題が浮き彫りになっています。
- 潜在的なニーズ: 欧州全土のサーカスや動物園には、まだ600頭以上の象がいるとされています。
- 限られたキャパシティ: パンゲア・トラストの聖域は400ヘクタールという広大な敷地を持ちながらも、受け入れ可能な最大数は30頭までです。
パンゲアのマネージング・ディレクター、ケイト・ムーア氏は、「法改正や仲間の喪失などで、象を飼い続けることが適切ではなくなる局面が訪れています。私たちは、特に孤独な状態で飼育されている象を優先的に受け入れたいと考えています」と語っています。
「家族」としての別れと、社会性への配慮
象は非常に社会的な動物であり、仲間との交流が精神的な健康に不可欠です。そのため、今回の移住はジュリーにとって「孤独からの解放」という意味を持ちます。
一方で、長年共に過ごしてきた人間側にとっても、この決断は容易ではありませんでした。サーカスディレクターのカルディナリ氏は、ジュリーを「数十年来の家族の一員」と呼び、深い愛着を明かしています。しかし、その上で「彼女にとってこれが正しい決断である」と結論付け、聖域へのスムーズな移行に向けて協力を得たことが決定打となったと述べています。
動物をエンターテインメントとして消費する時代から、彼らの本能的なニーズを尊重する時代へ。ジュリーの旅立ちは、私たちに動物との新しい関係性のあり方を静かに問いかけているのかもしれません。
Reference(s):
Portugal's last circus elephant leads the way to retirement retreat
cgtn.com