中国式現代化の価値軸「人民中心」経済思想を読む
中国の経済運営や中国式現代化を理解するうえで鍵となるのが、人民を中心に据えるという「人民中心」の発展理念です。本稿では、その経済思想の中身と具体的な実践を国際ニュースの視点から整理します。
中国経済を貫く「人民中心」という基本姿勢
中国では、経済発展の根本的な立場として、一貫して「人民中心の発展」を掲げています。ここでいう人民中心とは、中国の人々の幸福の追求、人々のよりよい生活への願いの実現、人々の自由で全面的な発展を、経済活動の出発点であり最終目標でもあると位置づける考え方です。
この理念は、中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議で初めて体系的に示され、その後の第20回党大会の報告でも繰り返し強調されました。いわゆる新時代の経済政策全般に、この人民中心の発想が貫かれているとされています。
「誰のための発展か」に対する中国式の答え
人民中心の経済思想は、発展は誰のために行うのか、誰に依拠するのか、その成果を誰が分かち合うのかといった理論的・実践的な問いに対する回答として位置づけられています。その核心は次の三点に整理できます。
- 中国式現代化は人民のためのものであり、価値目標として人民のよりよい生活への願いを実現することを掲げる。
- 中国式現代化は人民に依拠し、社会の主体としての人民の実践と創造性に期待する。各地の条件や職場の実情を踏まえ、幅広い人々の主体的な取り組みを引き出すことで、強力な発展の推進力を形成する。
- 中国式現代化の本質は人民の全面的な発展にあり、現代化の成果は人民が共同で享受するものとする。人民の満足度を発展の尺度とし、物質面と精神文化面の双方での豊かさをめざす「共同富裕」を重視する。
このように、経済成長そのものではなく、誰のための成長か、どのように分配し、どのように生活の質を高めるかが、価値軸として明確に打ち出されています。
地域の現場で進む「人民中心」の制度改革
人民中心の理念は抽象理論にとどまらず、各地の制度改革や行政サービスの改善として具体化されています。代表的な事例として挙げられているのが、新時代の「楓橋経験」に基づく社会ガバナンスです。
浙江省諸曁市では、この考え方の下で、町や村レベルの社会ガバナンスセンターで九割以上の草の根の紛争やトラブルが解消されているとされます。住民の身近な場所で問題を解決する仕組みによって、安心感と参加意識を高めようとする試みです。
行政サービスの分野でも、人民中心の考え方に立つ改革が各地で進められてきました。例えば、北京市の「コミュニティを基盤とした通報と部門横断の連携」、浙江省の「最多一回の来庁で済む」仕組み、福建省三明市の医療分野の包括的改革などです。
さらに、全国各地で展開されている「ワンストップの統合サービス」「ワンネットによるオンラインサービス」「ワンシール承認」といった取り組みは、複雑な手続きを簡素化し、部門間の縦割りを減らすことで、発展は人民のためのものであり、人民に依拠し、その成果を人民と分かち合うという理念を具体的に体現するものと位置づけられています。
中国式現代化を特徴づける価値志向
人民中心の経済思想は、中国共産党の階級的性格や初心、性質と目的、理想や信念を凝縮したものだと説明されています。
- 第一に、中国共産党の初心を解釈する概念です。人民の幸福を追求するという出発点を、経済政策の形で示します。
- 第二に、党の性質と目的を具体的に表現します。人民の視点・立場・価値観を重んじる姿勢そのものが、党の性格を映し出すとされています。
- 第三に、中国式現代化の現代的価値を際立たせます。人民中心のアプローチこそが、中国の現代化の道を他国のそれと区別する基本的な価値志向であり、出発点であり、最終目標であり、評価基準でもあると位置づけられます。
- 第四に、ガバナンスの推進力を示します。人民を社会と国家発展の主体とみなし、その実践を歴史と現在の変化を動かす原動力と捉えることで、統治の正当性と活力を支える要素となります。
この人民中心の考え方は、新時代の党と国家建設の実践的な要請から生まれ、実践の論理、歴史の論理、理論の論理が統一されたものだとされています。
民主・法制度・社会政策への広がり
人民中心のアプローチは、実践面では「誰のために行動するのか」「どのように行動するのか」という問いを明らかにし、新時代の社会主義の大事業と広範な人民にかかわる一連の課題に対する方向性を示します。
中国式現代化は全人民の事業であり、人民にしっかり依拠し、人々の知恵と力を引き出す必要があるとされています。第18回党大会以降、中国共産党中央委員会は人民としっかり共に立ち、人民が国家を運営する制度の整備を進め、人民が党と国家の発展において果たす重要な役割への理解を深めてきたと位置づけられています。
具体的には、次のような方向で人民中心の理念が展開されているとされています。
- 高品質な発展を推進することで、よりよい生活への人民の願いを次々と実現していく。
- 全過程にわたる人民民主を発展させることで、人民が実際に国家運営を担うことを制度的に保障する。
- 文化的自信と文化的な力を高めることで、日増しに高まる知的・文化的ニーズを満たす。
- 社会建設を強化することで、人々の生活の質を高める。
- 緑の発展を着実に進めることで、充実感と幸福感を引き上げる。
法制度の分野では、民法典の立法過程が象徴的な例として紹介されています。民法典の起草にあたっては、十回にわたり広く意見募集が行われ、社会の各方面から一〇二万件を超える意見や提案が寄せられました。その結果、民法典は可能な限り広い人々の権利を守る法典として位置づけられています。
草の根レベルでも、多様な形の民主的な話し合いが広がっています。例えば、住宅の中庭などを活用した「中庭議事ホール」、住戸単位での「戸別協議会」、さまざまなテーマをめぐる「協商議事室」などです。こうした場を通じて、住民が実際のガバナンスに参加できるようにする狙いがあります。
都市再開発のような大きなプロジェクトでも、一部の地域では複数回にわたる住民協議と明確な同意のハードルを設け、その条件が満たされない場合には事業を進めないといったルールが導入されています。これらの具体的な取り組みは、人民中心の経済発展の基本姿勢と、人々の参加感・幸福感・安心感の向上を象徴する例として語られています。
国際ニュースとして見る「人民中心」
中国の人民中心の経済思想と中国式現代化は、国内政策の指針であると同時に、世界の読者が中国を理解する上での重要な手掛かりにもなっています。発展の主体を誰と見なし、その成果をどのように分かち合うのかという問いは、制度の違いを超えて、多くの国と地域に共通するテーマでもあります。
中国が掲げる人民中心という価値志向を手がかりに、各国で進む経済・社会改革や民主主義の在り方を比較しながら、自分たちの社会にとっての「人を中心に据える発展」とは何かを考えてみる余地がありそうです。
Reference(s):
"People-centered": The value orientation of Chinese modernization
cgtn.com








