トランプ米大統領、首都にナショナルガード派遣 犯罪対策は政治ショーか
トランプ米大統領が首都ワシントンにナショナルガード約800人と連邦の法執行要員を派遣し、犯罪一掃を掲げた措置が、実際には犯罪率が歴史的低水準にある中で行われたとして、全米で大きな論争を呼んでいます。
首都に800人動員、30日間の非常配備
火曜日、迷彩服姿の兵士たちが次々とワシントンのナショナルガード司令部に集結し、首都での治安対策のための配備が始まりました。動員されるのは約800人の兵士で、さらにトランプ大統領は30日間の非常配備期間中、市警を補完するため連邦法執行機関から約500人を追加投入するとしています。
ワシントンのバウザー市長は、当初はこの措置を不穏で前例のないものと批判していましたが、配備開始にあたっては、追加要員を活用して犯罪をさらに減らしたいと語り、前向きな姿勢もにじませました。
ただし、ナショナルガードの部隊には逮捕権は与えられておらず、街頭で武器を携行することも認められていません。担当者によると、標準装備の小銃などは近くに保管されるものの、基本的には無装備での警ら支援という位置づけです。
それでも大統領は声明で、首都から暴力犯罪者や若者の集団、薬物依存者やホームレスを一掃すると強い表現を用い、強硬な姿勢をアピールしました。この治安強化モデルを他の大都市にも広げる可能性に言及したことで、次はどの都市が対象になるのかという不安が広がっています。
データが示すのは歴史的低水準の犯罪率
しかし、ワシントンの犯罪データは、ホワイトハウスが描く危機感と必ずしも一致していません。2023年に一時的な暴力犯罪の増加が見られたものの、その後は急速に減少し、ここ2年は歴史的な低水準にあるとされています。
こうした中でのナショナルガード動員について、民主党や市民団体は政治ショーに過ぎないと批判しています。米市民自由連合ワシントン支部のモニカ・ホプキンス氏は、ナショナルガードの投入と、連邦司法長官のパム・ボンディ氏に首都警察の一時的な指揮権を与える措置を、緊急権限の乱用を正当化するための政治的な演出だと強く非難しました。
ホワイトハウスはすでに、首都の治安悪化を理由に連邦の捜査官や検察官を多数投入してきました。発表によると、今回の配備が始まる前日の月曜日だけで、約850人の捜査官や警察官が殺人や飲酒運転などの容疑で23人を逮捕し、違法拳銃6丁を押収したとしています。
一方、首都で連邦検事を務めるジャニーン・ピロ氏は、他都市と比べた暴力の程度を問われると、統計は十分だとして詳細な数字の比較には応じず、首都の危険性を強調しました。
異例のナショナルガード活用と法的リスク
首都ワシントンでは、ナショナルガードは州とは異なり大統領の直属とされています。各州では通常、ナショナルガードは州知事の指揮下にあり、連邦政府が統制するのは連邦任務に編入された場合に限られます。
市民に対する治安維持の目的で軍事組織を動員することは、アメリカでは例外的な措置とされています。トランプ大統領が今年6月、移民政策への抗議デモを受けてカリフォルニア州のナショナルガードを連邦の指揮下に置いたのは、1992年のロサンゼルス暴動以来の出来事でした。
カリフォルニア州はこの連邦化の合法性を争って提訴しており、現在その是非をめぐる裁判が進行中です。州知事の同意なしに州のナショナルガードを連邦政府が掌握したのは、公民権運動の時代以来とされ、今回のワシントンでの動員も含め、大統領がどこまで治安を理由に権限を拡大できるのかが問われています。
シカゴとニューヨークにも波紋
トランプ大統領はこれまでも、ボルチモアやシカゴ、ワシントンなど、民主党支持が強く黒人住民の多い大都市を名指しで批判し、都市の犯罪を選挙戦でも大きな争点としてきました。今回の首都での動きは、そうした政治的な文脈の延長線上にあると見る向きもあります。
大統領が名指ししたシカゴは、長年暴力犯罪に悩まされてきた都市ですが、今年前半の統計では、暴力犯罪は大きく減少しています。シカゴのブランドン・ジョンソン市長は、過去2年間で殺人件数が30パーセント、直近1年間で銃撃事件が40パーセント減ったと説明し、治安改善を強調しました。
ジョンソン市長は声明で、もし大統領がシカゴを本気で安全にしたいのであれば、犯罪抑止プログラム向けの連邦資金を解放すべきだと訴え、軍隊ではなくコミュニティ支援こそが必要だと主張しました。
トランプ大統領はまた、ニューヨークなど他の都市についても、保釈金制度の緩和が犯罪を招いていると批判しました。ニューヨーク州では2019年、軽微な犯罪については被告が現金を納めなくても保釈される制度が導入されましたが、その後は例外規定が追加され、裁判官が保釈金を設定できる余地も広がっています。
同州のホークル知事の報道担当者は、知事が昨年、地下鉄の治安対策としてナショナルガードを投入した経緯はあるものの、現在の州とニューヨーク市の犯罪率は共に過去最低水準だと反論しました。
何が問われているのか
今回のワシントンでのナショナルガード動員をめぐっては、治安悪化への対応という表向きの目的とは別に、次のような論点が浮かび上がっています。
- 犯罪データよりも、不安や恐怖のイメージが政策決定を左右していないか。
- 連邦政府が地方警察やナショナルガードをどこまで直接統制できるのかという権限の線引き。
- 民主党支持の大都市や、黒人をはじめとする有色人種の多い地域が、政治的な攻撃対象になっていないか。
日本にいる私たちにとっても、治安対策を名目とした非常権限の行使がどのように拡張されていくのかは、民主主義と法の支配を考えるうえで重要な示唆を与えます。カリフォルニア州の裁判の行方や、今後他の都市に同様の動員が拡大するのかどうかは、アメリカ政治と都市政策を見ていくうえで注目すべきポイントと言えるでしょう。
Reference(s):
National Guard gathers in Washington amid disputed crime data
cgtn.com








