中国JUNO計画、世界最大級ニュートリノ検出器が最終段階へ
中国・広東省の地下に建設が進む巨大科学施設「江門地下ニュートリノ観測所(JUNO)」で、世界最大級の透明球形ニュートリノ検出器への超純水の注入が始まり、計画が最後の重要局面に入ったと報じられました。宇宙の謎に迫るこのプロジェクトは、国際的なニュートリノ研究の地図を塗り替える可能性があります。
江門地下ニュートリノ観測所(JUNO)とは
JUNOは、中国南部・広東省江門市開平の花崗岩層の地下深くに建設されたニュートリノ観測施設です。地下ホールには深さ44メートルの円筒形の水槽が掘られ、その中核に液体シンチレータを用いた巨大検出器が据え付けられています。
検出器は直径41.1メートルのステンレス鋼製メッシュ構造に支えられ、その内部に直径35.4メートルのアクリル製の透明球が収められます。この球の内部には、最終的に約2万トンの液体シンチレータが満たされる計画でした。液体シンチレータは、粒子が通過したときにわずかな光(シンチレーション光)を発する特殊な液体です。
超純水の注入が示す「最後の重要段階」
今回始まったのは、このアクリル球と周囲の水槽全体に超純水を注入する作業です。プロジェクトを主導する中国科学院高エネルギー物理研究所によると、超純水は高度な浄化システムを何段階も通して精製され、1時間あたり100トンの流量で水槽に送り込まれたと説明されています。
水による充填プロセスは二段階で進められる計画でした。最初の約2カ月間で水槽とアクリル球内部を超純水で満たし、その後約6カ月かけて、アクリル球内部の水だけを液体シンチレータに置き換えるというものです。全体の充填作業は、2025年8月までに完了する見込みと当時説明されていました。その後に正式運転とデータ収集が始まる予定でした。
水槽自体も重要な役割を果たします。検出器を収める水槽は「水チェレンコフ検出器」として機能し、その上部には約1000平方メートルの宇宙線トラッカー(飛来する宇宙線の軌跡を追う装置)が設置されています。この二つを組み合わせることで、宇宙線による信号を検出し、それを差し引くことでニュートリノの微弱な信号だけを取り出しやすくします。
さらに、水槽の水は周囲の岩石からの自然放射線や、近くの岩に宇宙線が当たって生じる多数の二次粒子を遮る「盾」としても働きます。こうしたノイズを徹底的に抑えることが、高精度なニュートリノ観測には欠かせません。
世界最高レベルを目指す検出性能
JUNOの液体シンチレータ検出器の内壁には、直径20インチの光電子増倍管が約2万本、直径3インチの光電子増倍管が約2万5000本びっしりと配置されています。光電子増倍管は、わずかな光を電気信号に変えて増幅する「超高感度の目」の役割を担います。
国際的な最新水準と比べると、JUNOの液体シンチレータの体積は約20倍に拡大し、光電子の取得量(光電子収量)は約3倍に向上するとされています。その結果、エネルギー分解能(入ってきた粒子のエネルギーをどれだけ細かく測り分けられるか)は、これまでにない3%という水準に達する計画でした。これは、ニュートリノの性質をこれまで以上に精密に調べる上で、大きな武器になります。
「ゴースト粒子」ニュートリノとは何か
ニュートリノは、物質世界を構成する12種類の基本粒子のうち、もっとも軽く、電気的に中性な粒子です。光に近い速さで飛び回り、ビッグバン以降、宇宙空間を満たし続けています。星の内部で起こる核反応や、超新星爆発、原子炉の運転、岩石中の放射性物質の崩壊など、さまざまな現象で大量のニュートリノが生み出されています。
しかし、ニュートリノは通常の物質と滅多に相互作用しません。そのため、人間の体や建物、地球さえも、ほとんど何もなかったかのようにすり抜けていきます。この「幽霊のような」性質から、ニュートリノはしばしば「ゴースト粒子」とも呼ばれます。逆に言えば、そのわずかな痕跡を捉えるには、JUNOのような巨大で超高感度の検出器が必要になります。
主目標は「質量階層」の解明
JUNOの主な科学的目標は、ニュートリノの「質量階層」を測定することです。ニュートリノには3つの種類があり、それぞれの質量がどのような順番(階層)になっているかは、いまも決定的な答えが出ていない問題です。この階層を明らかにすることは、素粒子物理学だけでなく、宇宙の進化や物質と反物質の不均衡を理解する鍵になると考えられています。
JUNOではこのほかにも、原子炉から飛んでくるニュートリノの精密観測や、超新星爆発からのニュートリノ検出、地球内部からの「地球ニュートリノ」の研究など、最先端のテーマに取り組む計画が示されています。
国際協力で進む巨大プロジェクト
JUNOの研究チームには、17の国と地域から700人以上の研究者が参加しています。日本からも、ニュートリノ研究で経験を重ねてきた研究者が関わっています。JUNOは、日本で建設が進むハイパーカミオカンデ計画や、米国の深地下ニュートリノ実験(DUNE)と並び、今後の国際的なニュートリノ研究を支える主要施設の一つになることが期待されています。
それぞれのプロジェクトは、観測するニュートリノのエネルギー帯や距離、手法が異なり、互いを補完し合う関係にあります。複数の大型実験のデータを組み合わせることで、ニュートリノの性質をより立体的に理解できる可能性があります。
私たちの「日常」と遠い宇宙をつなぐ研究
ニュートリノ観測は、一見すると日常生活から遠く感じられるかもしれません。しかし、星の寿命や元素の起源、地球内部の動きなど、私たちの世界の成り立ちを理解する上で、欠かせない手がかりを与えてくれます。
JUNOのような地下深くの静かな実験室で集められるデータは、宇宙最大級の爆発現象から地球足元の岩石の中で起きている現象まで、スケールの異なる世界をつなぐ「共通言語」とも言えます。2025年に進展したこのプロジェクトの一歩一歩が、私たちが宇宙をどう見て、どう語るかを静かに変えつつあります。
Reference(s):
China's transparent spherical neutrino detector reaches critical stage
cgtn.com








