中国の新型電波望遠鏡2基が稼働 深宇宙探査とVLBI網が一段と強化
中国で口径40メートルの新しい電波望遠鏡2基が正式に稼働し、月探査や火星探査などの深宇宙ミッションを支える観測体制が一段と強化されました。中国の電波天文学と深宇宙探査の両面で重要な節目となる動きです。
中国のVLBIネットワーク、6局体制へ
今回運用が始まったのは、北東部の吉林省長白山エリアと南西部の西蔵自治区シガツェに設置された、いずれも口径40メートルの電波望遠鏡です。建設は中国科学院上海天文台(SHAO)が担いました。
この2基の追加により、中国の超長基線電波干渉計(VLBI)ネットワークは、上海の制御センター1カ所と6つの観測局から成る体制となりました。
- 上海2局
- ウルムチ局
- 昆明局
- 長白山局
- シガツェ局
SHAOの沈志強氏によると、2基の新望遠鏡の参加で、VLBIネットワークの最長基線距離、いわば仮想的な望遠鏡の有効口径は約3200キロメートルから約3800キロメートルへと拡大しました。その結果、観測できる空の範囲は約25パーセント広がり、Xバンド(比較的高い周波数帯)での角度分解能は約18パーセント向上するとされています。
VLBIとは何か 離れた望遠鏡をつなぐ「仮想望遠鏡」
VLBI(Very-Long-Baseline Interferometry、超長基線電波干渉計)は、離れた場所にある複数の電波望遠鏡が同じ天体からの電波を受信し、その信号を組み合わせて解析する技術です。
通常の望遠鏡では1台ごとに観測しますが、VLBIでは各地の望遠鏡が受信した信号を後から精密に同期させて処理します。科学者たちは、これを「複数の望遠鏡を一つにつないだ仮想望遠鏡」と表現しています。この仮想望遠鏡の大きさは、望遠鏡同士の最大距離に相当します。
- 宇宙にある天体の細かい電波像を得る
- 天体の位置を非常に高い精度で測定する
- 深宇宙探査機の位置を正確に割り出す
こうした特長により、VLBIはブラックホールの観測から惑星探査機の航法支援まで、幅広い用途で欠かせないインフラになっています。
月・火星探査を支える観測網から、次の深宇宙ミッションへ
中国のVLBIネットワークはすでに、月探査計画「嫦娥(チャンア)1号」から「嫦娥6号」までの各ミッションや、火星探査「天問1号」を支えてきました。探査機の軌道や位置を高精度で測定し、ミッションの成功に重要なデータを提供してきたとされています。
沈志強氏は、6局体制となったVLBIネットワークにより、今後は異なる方向にある複数の天体や探査機を同時に、柔軟に追跡できるようになると説明します。これにより、今後の月探査や深宇宙探査ミッションに対する支援能力が一段と高まる見通しです。
極地の寒さと高地の薄い空気 建設現場のハードル
2基の電波望遠鏡の建設は、2023年9月に始まりました。今回のプロジェクトは、過酷な自然環境との闘いでもあったといいます。
- 一方の望遠鏡は標高4100メートルの高地に設置
- もう一方は、冬季には気温がマイナス20度を下回る厳寒地に設置
高地では薄い空気や気象条件が作業を難しくし、極寒地では機器の耐久性や施工スケジュールへの影響が懸念されます。そうした制約の中で大型アンテナを組み上げ、精密な観測に耐えうるシステムとして仕上げることは、大きな技術的挑戦でした。
ブラックホールから重力波まで 基礎研究も後押し
沈志強氏は、新しい望遠鏡が中国の電波天文学の研究能力を高め、最先端の天体物理学にも弾みをつけると述べています。期待されているテーマは多岐にわたります。
- 銀河中心にある超大質量ブラックホールの性質の解明
- 急激に明るさが変化するコンパクト天体(中性子星や白色矮星など)の観測
- 重力波の電磁的な対応天体(光や電波でとらえられる現象)の探索
- 銀河の回転やガスの運動など、銀河ダイナミクス(力学)の研究
こうした研究は、宇宙の進化や極限環境での物理法則の理解を深めるうえで重要な意味を持ちます。
オープンな研究基盤としての期待
2基の望遠鏡の稼働開始を記念する式典で、中国科学院副院長のDing Chibiao氏は、今回のような大型の科学技術インフラがイノベーションを支えるうえで果たす役割の大きさを強調しました。そのうえで、科学技術施設の「オープン化と共有」をさらに進めていく必要があると呼びかけました。
また、中国科学院のYe Shuhua氏は、新しい望遠鏡が今後の月探査だけでなく、小惑星、火星、木星などを対象とする深宇宙ミッションでも重要な役割を果たすと指摘しています。
深宇宙探査や基礎研究を支える観測インフラは、一国の科学技術力を示すだけでなく、国際的な知識の共有や共同研究の基盤にもなります。高精度なVLBIネットワークを備えた中国の新たな電波望遠鏡が、これからどのような宇宙の「新しい姿」を私たちに見せてくれるのか、引き続き注目していきたいところです。
Reference(s):
China's new radio telescopes put into use for deep space exploration
cgtn.com








