中国の王勇軍氏がフェインバーグ賞 脳卒中臨床研究で初のアジア人
中国の臨床科学者、王勇軍(ワン・ヨンジュン)氏が、2025年に米ロサンゼルスで開かれた国際脳卒中会議(International Stroke Conference、ISC)で、脳卒中臨床医学の最高賞とされるウィリアム・M・フェインバーグ賞(Feinberg Award)を受賞しました。34年の歴史を持つこの賞で、アジアの科学者が選ばれるのは初めてです。
脳卒中は世界各地で大きな健康課題となっており、その予防や治療の進歩は、日本を含む多くの国と地域の医療現場に直結します。今回の受賞は、中国から生まれた臨床研究が国際的な標準治療を動かしつつあることを象徴する出来事といえます。
初のアジア人受賞者・王勇軍氏とは
王勇軍氏は、北京天壇医院の院長であり、中国脳卒中協会の会長も務める臨床科学者です。過去30年にわたり、チームとともに脳卒中治療に関する12本の重要な臨床エビデンス(科学的根拠)を示し、国際的な診療ガイドラインや日々の医療現場の判断を変えてきました。
同氏は受賞にあたり、虚血性脳卒中(脳の血管が詰まるタイプの脳卒中)に対する静脈血栓溶解療法の臨床研究で、自らのチームが主要な役割を果たしてきたと振り返りました。また現在も、テネクトプラーゼという薬剤を用いた軽症脳梗塞や脳底動脈閉塞、発症から長時間経過した症例に対する血栓溶解療法など、複数の臨床試験が進行中であると説明しています。
治療の「時間との闘い」を変えた研究
4.5時間から24時間へ――AIが広げた治療の窓
脳卒中治療では、発症から治療開始までの時間が短いほど、機能回復の可能性が高まるとされています。王氏のチームは、画像診断と人工知能(AI)技術を組み合わせることで、従来は4.5時間程度とされてきた静脈血栓溶解療法の適応時間を、最大24時間まで拡大しました。
これにより、急性虚血性脳卒中患者の約90%が血栓溶解療法を受けられる可能性が生まれたとされ、頭蓋内出血(脳内出血)のリスクを増やすことなく、障害が残る患者の割合を8.8ポイント低下させたと報告されています。救急搬送や受診のタイミングに左右されてきた「時間との闘い」の条件を、大きく書き換える成果といえます。
再発率を世界的に下げた二剤併用療法
王氏らは、アスピリンとクロピドグレルという2種類の抗血小板薬を組み合わせた治療法も確立しました。このアプローチにより、世界全体での脳卒中再発率は11%から6%へと低下し、脳卒中の再発リスクを大きく抑えたとされています。
中国では、こうした治療により100万人近い脳卒中患者の再発が防がれたとされ、臨床研究が実際の患者の生活に直結していることがうかがえます。
2,400超の病院を結ぶ臨床研究ネットワーク
王氏は、成果の背景には個人ではなくチームの力があると強調します。中国各地の2,400以上の病院が臨床研究ネットワークとして参加し、日々の診療データや治療成績を集約することで、大規模かつ実践的な研究を可能にしてきました。
中国は脳卒中の負担が重い国の一つとされ、その課題に対応するため、研究チームは長年にわたり予防や治療に関する先駆的な取り組みを続けてきました。過去10年間だけでも、北京天壇医院の医師らは国家レベルの臨床研究を50件以上完了し、そのうち14件が国際的な脳卒中予防・治療に向けた「中国の解決策」として提示されています。
フェインバーグ賞と国際脳卒中会議(ISC)
ウィリアム・M・フェインバーグ賞は、米国脳卒中協会が設けた賞で、脳卒中の臨床医学分野における最も権威ある賞の一つとされています。賞の名前は、脳卒中の原因解明などに大きく貢献した臨床医・研究者ウィリアム・M・フェインバーグ氏に由来します。
王氏が受賞した国際脳卒中会議(ISC)は、世界各地からおよそ4,000人の専門家が集まる3日間の会議で、脳卒中の予防、治療、リハビリテーションに関する最新の研究成果や診療のトレンドが共有されます。今回の受賞は、その場で国際コミュニティから高く評価された形です。
私たちへの意味:アジア発のエビデンスが動かす医療
今回のニュースは、一人の研究者の受賞にとどまらず、どこで生まれたエビデンスが世界の医療を動かすのかという問いも投げかけています。日本を含むアジア各国・地域にとって、いくつかの示唆が見えてきます。
- アジアの患者データに根ざした臨床研究が、国際ガイドラインや標準治療を変え得ること
- 画像診断とAIを組み合わせたアプローチが、救急医療の現場を具体的に変え始めていること
- 単一の病院ではなく、広域ネットワークとして取り組む臨床研究が、新しい「当たり前」をつくる力を持つこと
高齢化が進む社会では、脳卒中は今後も重要なテーマであり続けます。今回のフェインバーグ賞受賞は、中国の研究チームによる成果であると同時に、アジア発の知見が世界の医療を形づくる時代が本格化していることを示す出来事といえるでしょう。日々ニュースを追う私たちにとっても、どの地域からどのような知見が生まれているのかという視点を持つきっかけになりそうです。
Reference(s):
Chinese scientist Wang Yongjun wins Feinberg Award for stroke research
cgtn.com








